1.著者は、英国ケンブリッジ大学の研究者であり、医学統計学への貢献によりナイトを叙爵された。本書の英語の原題は The Art of Statistics であり、2019年の出版。本書は9章構成であり、著者の専門分野である医療統計や犯罪統計を例にして解説。従って経済統計は殆ど現れない。順に簡単に追うと、カテゴリーカルな質的データ、連続変数の数値データ、母集団と測定、因果関係、回帰分析による関係性のモデリング、アルゴリズムと分析・予測、標本の推定と信頼区間、確率、確率と統計の統合、となる。最後の方は統計学の解説が行われている。本書を読みこなすには高校レベルの数学の基礎は必要。出版社のサイトでは「数式は最小限」という宣伝文句が見られるが、数式だけでなく数学の基礎知識は必要。

 

2.邦訳者も文学部の英文科出身とかではなく、お茶の水女子大学大学院理学研究科数学専攻修了の方だ。経済学部生は、高校レベルの数学は怪しい場合が少なくない。ただ、数式が少ないことは確かで、しかも、数式を延々と解いていく論文形式ではなく、実務的な問題や課題を中心に据えてトピックを展開しているので、判りやすい。冒頭から、英国のシリアルキラーだった医師について、統計学ではどの段階で止めることが可能であったかの確率、というか、蓋然性を考えたり、近所に有名大手スーパーがあると住宅価格がどれくらい上がるかを考えたり、といったところだ。いずれも統計的な確率分布で信頼性のある数字が推計される可能性がある。

 

3.本書で取り上げているようなデータサイエンスはディープラーニングやそれに基づく人工知能(AI)といった最先端技術の基礎となることはいうまでもなく、そのような最先端技術を直接に扱ったり、仕事として従事したりするわけではないとしても、一般教養的に情報として持っておくことは必要だ。加えて、類書でも散々指摘されているように、統計やグラフの書き方、あるいは、アンカーをどこに置いてしゃべるかなどで、人の受ける印象は一定程度変わってくる。そういった情報操作的な手法に騙されないリテラシーも現代では必須だ。ただ、Amazonのレビューを見ていると、極めて高い評価とそうでないものと両極端に分かれている。ちょっと難しいかもしれませんが、理解できれば面白いと思う。