1.戦後日本で「緊縮財政」が始まったのは、実は1995年11月国会の武村正義大蔵大臣(当時)の「財政危機宣言」ではない。1978年に成立した大平正芳内閣が始まりだ。大平は元・大蔵官僚、第79、80代の大蔵大臣、そして第68、69代の内閣総理大臣。大平は「棒樫財政論」や「安くつく政府」といったスローガンを掲げた、日本を代表する「小さな政府論者」の総理大臣。1975年、三木内閣にて、大平正芳大蔵大臣(当時)は、通常予算において初となる赤字国債発行したことを受け 「万死に値する!一生かけて償う」と、発言したことで有名だ。総理大臣就任後、各種の「政策研究会」を組織し、「大平総理の政策研究会報告書」を刊行した。

 

2.報告書にて「太平洋諸国がひとつの地域社会を形成し得る条件が整った。太平洋諸国が、その特色とする活力とダイナミズムをよく活用して、グローバリズムの新たな担い手となることを、心から期待する」「財政赤字が拡大し、国債の大量発行時代が招来されたことである」「経常的な歳出まで経常的に公債の発行に依存する現在の状況は極めて危険であり、当面の目標を赤字公債からの脱却におくのは妥当である」と、現代に繋がる「グローバリズム」「緊縮財政」路線が敷かれた。グローバリズム、新自由主義的政策(政府のムダを削れ!政府の公共サービスを民営化しろ!)といった政策を推進するためには、緊縮財政が必須なんだけど。政府は財政破綻する。だからこそ、民営化が必要だ、というレトリックが正当化されるわけだ。

破綻する政府はもはや公共サービスを提供できない。だからこそ、政府の公共を民営化し、売却しよう」というわけ。

 

3.自民党で財政再建を訴える財政健全化推進本部(本部長・古川禎久元法相)は30日、政府が6月に決定する経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に向けた提言案を大筋で取りまとめた。提言案は、国と地方の基礎的財政収支(PB)を2025年度に黒字化する現行目標の「堅持」を明記。その後も継続的に黒字幅を確保し、債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率を「引き下げていくべきだ」と要請した。自民党は来週に同本部の会合を開き、意見を聴取した上で、提言案を最終決定する。大平の政策研究会の呪いは、今でも有効。理由はもちろん、ビジネス優先のグローバリズムと、財務省の緊縮思想がピタリと噛み合ってしまったためだ。

 

4.責任ある積極財政を推進する議員連盟の提言は『(引用)日本独特の財源ルールが我が国の財政運営を歪めている。日本だけが「PB黒字化」を財政運営の目標とし、日本だけが国債60年償還ルールという減債制度に縛られてきた。この結果、需要不足が常態化し、名目GDPが膨らまず、一人当りGDPも先進7カ国で最低、名目GDPはドイツに抜かれ4位に落ちてしまった。国際競争力も35位に落ち込み、「衰退途上国」の道に足を踏み入れ始めている。この際、我が国独自の財政ルールを見直し、国際標準に合わせる必要がある。財務省は「健全な財政の確保」を任務としているが、我々政治家は、責任ある財政運営の下、国民の幸福と国家の発展を目指すべきであり、国民負担率が上昇し個人消費が上向かない中で、これまでの財政政策を継続していくならば、需要不足が継続し、経済成長を阻害し「衰退国家」への道を歩んでしまう。』と、具体的に問題を指摘し、「問題解決」と「日本の衰退国家化を食い止める」ためにと、日本国民の経世済民のために提言を出している。しかも「事実」に基づいて政策を組み立てている。


5.それに対し、緊縮財政本部の連中は何を望んでいるのか? 過去の緊縮財政が国民を貧困化させ、日本国を衰退させ、産業や科学技術を凋落させ、かつ財政も悪化させた(※政府の債務対GDP比率を上昇させた)ことはデータからも明らかだ。それにも関わらず、相変わらず陳腐な財政破綻論に基づき、日本衰退政策であるPB黒字化にこだわる意味が分からない。何しろ自民党政治的に半世紀も続いてきた緊縮財政路線だ。今回の骨太の方針で、大平正芳の呪いを打ち破る。さもなければ、我が国の衰退途上国化は止まらない。三橋貴明「大平正芳の呪い