所得倍増

1.池田勇人内閣が国民所得倍増計画を打ち出したのは、1960年。1961年4月期からの十年間で、「実質」国民総生産を倍増させることを目標に掲げた。実際には、所得倍増計画は八年で達成された。つまりは、この期間、実質賃金は上昇を続けた。1973年まで、1997年までで、図示したように、日本経済はまるで「別の国」のようになってしまった。1973年、1974年にGDPデフレータが急騰しているのは、もちろん「オイルショック」によるもの。これは日本だけではないのが、OPECの禁輸による「輸入物価上昇に起因するコストプッシュ型インフレ」を「政府の積極財政が原因だ」との誤解が広まった。新古典派の経済学者(ミルトン・フリードマンら)が嘘を広め、ケインズ的財政拡張政策が全否定されるようになった。結果的に、日本(や他の西側諸国)で財政が緊縮に向かい、規制緩和、民営化、自由貿易といったグローバリズムが進展することになった。

 

2.西側諸国の経済成長率は、それまでの半分程度に低下した。挙句の果てに、日本はバブル崩壊と橋本緊縮財政により、経済がデフレ化。実質賃金はその後、ひたすら下落することになった。現在の日本の物価上昇は、輸入物価上昇に起因するコストプッシュ型インフレだ。これを「財政政策で需要が拡大したからだ」と、データを無視した暴論を展開し、緊縮財政に持ち込もうとする勢力がある。そんなことをしても、単に日本経済がさらにデフレ―と(縮小)するだけのことだ。逆に言えば、高度成長期並に生産性の向上が見込める拡張的な財政政策が可能であれば、日本経済は復活する。まさに、日本は拡張的な財政政策へ転換する分岐点にいる。

 

3.5月20日、経団連は春闘の解凍・妥結状況を発表した。賃上げ率は5.58%とのことで、バブル崩壊時の1991年の5.6%に並んだ。「全ての事業者」が5.6%の賃上げになれば、物価上昇率を上回るため、実質賃金は上昇する。とはいえ、労組に加盟している生産者は16%。残りの84%がどうなるか。昨年は春闘で3.99%の賃上げが行われたが、全体では物価の上昇率には追い付かなかった。結果、実質賃金が24カ月連続でマイナスという悲惨な状況が続いている。政府は実質賃金上昇のために「やっているフリ」をする必要があるから、経団連を初めとする経済団体に「賃上げしろ」と共産主義国家のような圧力をかけるが、自ら支出を増やすわけではない。日本人は空気に弱いので、労組がある大企業などは賃上げに応じるが、全体への波及までは、さすがに政府はコントロールできない。原則として従業員500人以上の大手企業を対象に、報告があった16業種89社分を集計した。賃上げ率が5%を超えたのも91年以来だ。経団連は「今夏にまとめる最終集計でも5%台の水準になることはほぼ確実」とみている。月例賃金の平均引き上げ額は1万9480円で、比較可能な76年以降で最高となった。さて、名目賃金が5%上昇したところで、実質賃金がどうなるかは未だ不明だ。更には、上昇したところで、1~2%でしょう。それでも、97年以降に限ればマシだが、かつて(高度成長期)の日本の実質賃金上昇率はそれどころではなかった。