財務省の悪知恵「ステルス増税」 

1.獨協大学の森永卓郎教授はネット配信の討論番組で、教授「財務省にとって『増税は勝ち』で、日銀にとっては『利上げが勝ち』」と日本経済の最大の問題点を的確に指摘していた。既に日銀は3月にマイナス金利をやめて利上げ路線に転じた。秋口には追加の利上げが市場関係者の間で噂されている。日本経済を不安定化させる動きだ。財務省の「増税」路線の方は手が込んでいる。いわば見えない=ステルス化された増税を財務省は生み出そうとしている。その典型が、「少子化対策は待ったなしの瀬戸際である」という岸田首相の危機意識を背景にした「子育て支援金」だ。

 

2.「子育て支援金」は少子化対策の財源を、健康保険料に上乗せして徴収しようという制度設計。政府の説明はコロコロ変わり、初めは「実質負担額はゼロ」や「国民1人当たり平均で月500円の負担」を強調していた。だが国民には赤ちゃんや児童まで含まれている。それを指摘されると今度は、世帯収入による負担額を渋々公表した。それによると2028年度で、年収600万円世帯で月1000円の負担になる。このケースでは独身者が想定されているので、独身者にはつらい負担になる。また共働き世帯だと平均年収が800万円なので、単純に計算すると負担額は年間1万6200円になる。働く世代には追加的な負担になり、子供を新たに産みたい、育てたいという動機付けを経済面から低下させる可能性がある。

 

3.子育て支援金の負担は労使折半になるが、経済学の初歩からいえば、この経営者側の負担は労働者側に転嫁可能だ。もしそうなれば、共働き世帯で年間3万2400円の負担増だ。現役世代はただでさえ税と社会保険料の国民負担率が50%近くあり、森永教授いうところの「五公五民」状態だ。現役世代への負担増は限界にきている。しかも「子育て支援金」の負担は健康保険料で徴収するという。健康保険は病気のリスク分散を図る枠組みであり、子育て支援とは関係ない。つまり取れそうなところから取っているだけだ。これは財務省の悪知恵だ。こんなデタラメがまかり通れば、どんな理屈でも増税が可能になる。

 

4.いま、消費税について減税を主張しても「社会保障の財源に響く」と否定されている。同じことが、今後「子育て支援の負担を減らすべきだ」といっても「健康保険制度に響く」とされてしまう。そして、効果があるかどうか分からない少子化対策の名目で、どんどんステルス増税が増えていく可能性がある。まさに亡国ものの増税法案だ。残念ながら衆院を通過してしまったが、断固、見直すべきものだ。

(上武大学教授・田中秀臣)

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