1.額面にせよ、実質的な残高にせよ、いわゆる「国の借金」(以下では、「中央政府の負債もしくは債務=National Government Debt」を議論の対象にします)は減らさなければならないものなのでしょうか。
事実として、国の借金は明治以来約140年、金額ベースでも実質残高ベースでも減っていないことを示すのが、財務省のデータなどから作った下記のグラフです。
https://twitter.com/sima9ra/status/768397725503135744
http://bit.ly/2bvrB9P

青い実線で示した債務金額は、国の借金問題が喧伝されるようになった1990年代よりはるか以前、明治維新の頃からほぼ一貫して増加し、減る気配は一向にありません。
他方で、赤い点線で示した実質残高は、確かに岸本氏の指摘する通り、1946年以降1951年まで、インフレを反映して一旦は急激に減少しています。

 

2.しかしながら、実質残高も1950年代以降は再び増加に転じ、少なくとも1980年には、敗戦で壊滅的な状況に陥って「チャラに」せざるをえなかったはずの1945年の実質残高を超え、その後もほぼ一貫して増加を続けています。
本当に国の借金が減らさなければならないものだとしたら、壊滅的状況であったはずの当時を上回る実質残高を、35年も続けられるわけはありません。
小林氏のみならず、岸本氏の議論も現実離れした前提に基づくものであることは、この事実だけ見ても明らかです。

少なくとも「国債に代表される政府債務の償還が、広い意味で政府の一部門である中央銀行が自在に発行できる『通貨』という別の政府債務を提供する形で行われる(=政府債務が自国通貨建てである)」という制度的枠組みが成立している限り、こうした現実が政府の意図に反して崩れることはありません。
すなわち、「借金の返済」ではなく、「債務の交換」を行なうことが絶えざる前提となっているため、金額ベースでも実質残高ベースでも、政府債務を減らす必要がないわけです。

 

3.経済政策の適切なあり方を論じるにあたっては、現実的な前提に基づいて論理的な議論を行うべきことは言うまでもありません。今回ご紹介した記事でも示されているように、本メルマガの読者にとっては当然過ぎるかもしれない政府債務に関する大前提が、いわゆる有識者の議論の多くにおいて共有されていないのが現実です。
「借金=返すべきもの」というイメージ操作のなせるわざでしょうか、いわゆる「国の借金」を巡る議論の背景にはこうした深刻な誤解があることを、改めて問題提起しておきたいと思います。

〈島倉原からのお知らせ〉
↓現実的な前提のもとで、適切な経済政策は財政支出を継続的に拡大する積極財政であることを論じた拙著『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』のあらすじを紹介しています。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-94.html

 

4.元FRB議長のグリーンスパン氏が、アメリカ経済のスタグフレーションを懸念しつつ、遠からず金利が急速に上昇するとの予想を示しました。
同氏の議論の妥当性を検証しつつ、今後の金融市場の動向について考察しています。
↓「グリーンスパン氏の警鐘」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-190.html

FRBによる利上げが行われない中で、アメリカ株の主要指数が史上最高値を緩やかに更新しています。
「適温相場」と評されるそうした状況について、金融循環論の見地から考察しています。
↓「適温相場の持続力」
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