半導体が死命を決する、自由貿易は死んだ

1.レモンド米商務長官は8日、中国が台湾に侵攻し半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)を掌握すれば、米経済にとって「間違いなく壊滅的な」ものになると、米下院公聴会で述べた。このような事態が起こるかどうか、起こるとしたらどのように起こるのかについてはコメントを控えた。ただ「米国は現在、最先端半導体の92%を台湾のTSMCから購入している」とした。

 

2.半導体戦争のポイントは「アメリカ合衆国であっても、自国の技術・企業のみでは、最先端の半導体を製造できない」という点にある。ロ・ウ戦争からも分かる通り、今後の「戦争」は「賢い無人兵器」による攻撃が主力となる。つまりは、半導体の計算能力が死命を決することになる。それにも関わらず、アメリカは半導体製造について「自由貿易」に委ね、「ファブレス-ファウンドリー」モデルを放置していた。

 

3.結果的に、最先端半導体の殆どが台湾、及び韓国という「地政学的問題」を抱える国で生産されている状況になった。2018年以降、アメリカは「同志の国・地域」と共に中国との半導体戦争に突入した。まずは、同年、中国のZTEに制裁。更に台湾ファウンドリーのUMCと中国国策企業JHICC、米マイクロンへのスパイ容疑で起訴。加えて、輸出管理改革法を成立させた。

 

4.2019年、アメリカは、中国ファーウェイを「エンティティリスト」に追加。エンティティリストとは、アメリカの安全保障や外交政策上の利益に反すると判断された企業等のリスト。20年、アメリカはファーウェイへの規制強化すると同時に、TSMCに「踏み絵」を迫った。TSMCはアメリカに先端半導体工場の設立を発表。モリス・チャンが「自由貿易は死んだ」と言い出したのは、この頃だ。更に同年、アメリカは中国SMIC(ファウンドリー)をエンティティリストに追加。2021年、アメリカは韓国SKハイニックスに対し、中国へのEUV露光装置の輸出を断念させた。更に同年、サムスン電子がアメリカに最先端半導体工場設立を発表。「踏み絵」を踏まされた。2022年の10月7日、アメリカは中国への半導体規制を大幅に強化(10・7規制)しま。それに対し、中国はアメリカの半導体規制をWTOに提訴。アメリカは歯牙にもかけず、中国のYMTC(NANDメーカ)と中国SMEE(露光装置メーカ)をエンティティリストに追加。2023年、日本・米国・オランダが、中国への半導体輸出規制で合意。まるで冷戦期の米ソ関係のごとく、両国の半導体関連の「関係」は悪化していった。勿論、日本も他人事ではなく、アメリカの「同志国」として位置付けられている。

 

5.米半導体大手インテル(INTC.O), opens new tabは8日、米商務省が同社の中国顧客企業に対する消費者関連製品の輸出許可を一部取り消したと発表した。インテルの第2・四半期の売上高に影響がおよぶ可能性がある。構造的に、防衛安全保障のキーテクノロジーが「半導体」になってしまった以上、冷戦期のような鍔迫り合いと、エスカレーションが続いていくことになる。何しろ、日本は米軍に占領されているわけで、踏み絵を踏まされることすらない。自由貿易は死んだ。ビジネスよりも防衛安全保障が優先される時代が訪れた。この恐るべき現実を日本の政治家や官僚、財界人たちは理解しなければならない。