日本では考えられない中国の「異様な慣習」

1.中国は「ふしぎな国」。今ほ中国が読みにくい時代はなく、かつ、今後ますます「ふしぎな国」になっていくであろう中国。そんな中、『ふしぎな中国』の中の新語・流行語・隠語は、中国社会の本質を掴む貴重な「生情報」であり、中国を知る必読書だ。  ※本記事は2022年10月に刊行された近藤大介『ふしぎな中国』から抜粋・編集したもの。学査改(シュエチャーガイ)。「学習」という言葉は、孔子(紀元前552年~紀元前479年)と弟子たちの言行録である『論語』の「学而」に出てくる、「学びて時に之を習う、亦説ばしからずや」(学而時習之、不亦説乎)から来ている。爾来、中国でも日本でも、「学習」は教育とイコールのように重視されてきた  ところが現在の中国では、「学習」にもう一つ別の意味がある。ヒントは、これが分かればあなたも「習近平通」。そう、「習近平を学ぶ」ということだ。

 

2.14億人を超える中国人は、伝統的な儒教の精神に加えて、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を学ばないといけないのだ。  「習近平を学ぶ」とは、具体的にどういうことか? 習近平総書記自身がこうしたことを唱え始めたのは、2016年2月からだ。例えば同年4月25日、視察先の安徽省で、地元の幹部たちを前にこう命じた。「われわれには、自己の内なる革命が必要だ。『両学一做(リアンシュエイーズオ)』(党章党規と習近平重要講話を学び、資格ある党員となる)教育は、今年の中国共産党の一大事業だ。これを全党員が貫徹していかねばならない!」  こうして「両学一做」運動が始まった。すぐに、当時8875万人いた中国共産党員全員に、『中国共産党党内重要法規(2016年版)』(国家行政学院政治学部編)と『習近平総書記系列重要講話読本(2016年版)』(中国共産党中央宣伝部編)が配られた。  「配られた」と言うと、気前よく無償提供されたように感じるが、実態は少し異なる。中国共産党は党員の基本給与の0・5%~2%(給与水準によって4段階)を党費として徴収しており、そこからまかなわれたからだ。  こうした理由で、習近平総書記は「中国最大のベストセラー作家」である。かつて『毛主席語録』などで莫大な印税を得ていた毛沢東主席と同じだ。中国全土の書店では、習近平総書記の著作を、入り口近くの「一番見やすい場所」に置くことが指導されている。  

 

3.ちなみに、2022年も「中国最大のベストセラー作家」は、「新作」を連発している。『世界経済フォーラム(ダボス会議)オンライン会議講演』(2月)、『北京冬季オリンピック・パラリンピック総括表彰大会での講話』(4月)、『習近平外交講演集』(第1巻、第2巻、5月)、『手を携えて挑戦に立ち向かう―ボアオ・アジアフォーラム2022年年次総会開幕式の基調講演』(5月)、『中国共産主義青年団成立100周年慶祝大会での講話』(5月)、『香港祖国返還25周年慶祝大会・香港特別行政区第6期政府就業式典での講話』(7月)、『習近平強軍思想学習問答』(8月)、『習近平 国政運営を語る』(第4巻、9月)、『習近平の人権尊重と保障についての論述摘要』(9月)、『習近平生態文明思想学習綱要』(9月)、『習近平の社会主義精神文明建設に関する論述選集』(9月)……。  ともあれ、2016年から習総書記の重要講話などを書き写す「習字運動」が始まった。 パソコン上だと容易にコピペできてしまうので、昔風の手書きを強要したのである。各党員は日々、重要講話のどの部分を書き写したかを、共産党の上長に報告しなければならない。他人に小遣いを渡しての代筆を防ぐため、筆跡のチェックまで行われた。  また「一做」として、こうした書き写しによって、自分が汲み取った習近平総書記の偉大性などを表述する「学習会議」も、官公庁や国有企業で始まった。それには、自分の行いを反省する「自己批判」も含まれる。  例えば、私の友人が勤める北京の国有企業では、毎週金曜日の午後が「学習会議」に当てられた。  「そんな『学習』をしていて、本来の仕事はどうなるの?」  私は思わず、「愚問」を発してしまった。  「習近平総書記の重要講話を『学習』する以上に大事な仕事があるか! ―共産党幹部ならそう答えるだろうね」  

 

4.友人は、ため息交じりに答えた。  中国人は、よく挨拶代わりに「吃了嗎(チーラマ)?」(もうごはん食べた? )と声を掛け合う習慣がある。だがこの頃から、「抄了嗎(チャオラマ)?」(もう書き写した? )に変わっていった。習慣とは恐ろしいものだ。  他にも、手を替え品を替え「学習運動」が起こった。例えばCCTVでは、2018年10月8日から19日まで12夜連続で、ゴールデンタイムの夜8時から『平“語”近人―習近平総書記用典』が放映された。  番組名は、習近平の名前「近平」をもじって、「平易な語で人に近づく習近平総書記用語辞典」としたのだ。毎日一語ずつ「習近平語録」を採り上げ、その素晴らしい意味内容を解説していくという番組である。共産党員は必見で、この番組をもとに全国493万ヵ所の「基層(末端)党組織」で「学習会議」が開かれた。  こうした流れで、第20回共産党大会を7ヵ月後に控えた2022年3月、新たに始まったのが「学査改(シュエチャーガイ)」運動だった。中国共産党のホームページでは、こう解説している。  〈習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想、特に習近平経済思想の深い学習を貫徹するため、(各)機関の党が打ち建てた政治指導と政治による保障の役割を十分に発揮し、習近平総書記の重要指示と党中央が決定した経済活動政策の手配実行を見定めていく〉  要は、習近平総書記が日々述べた「重要講話」などを学習し、その偉大性を精査し、講話に合わせて自己改善を図っていくという運動だ。習近平政権が固執した「ゼロコロナ政策」(動態清零)を啓蒙していくという目的にも利用された。  習近平総書記の「重要講話」など、日本人は聴き慣れないだろう。例えばこんな調子だ。2022年4月29日の党中央政治局第38回集団学習会で行った長い「重要講話」の一部で、監督管理の重要性について述べた一節を紹介しよう。  

 

5.「監督管理体制の機構制度改革を深化させ、法による監督管理、公正な監督管理、出だし部分の監督管理、精密な監督管理、科学的な監督管理を堅持するのだ。監督管理責任を全面的に実行し、監督管理方式のイノベーションを起こし、監督管理の至らない点を補修し、資本の監督管理能力と、監督管理システムの現代化のレベルを引き上げるのだ。 法律法規が明らかでない場合は、『審査批准する者が監督管理し、主管する者が監督管理する』という原則に照らして、監督管理責任をしっかりさせるのだ。現場での監督管理を強化し、地方は現場の監督管理責任を全面的に実行し、監督管理を隅々まで確保できるようにしていくのだ。 業界のコントロールと総合的なコントロールの分業協作機構制度を強化し、業界の監督管理と金融の監督管理、外資の監督管理、競争の監督管理、安全の監督管理など総合的な監督管理の協調連動を強化していくのだ……」  最後までマジメに読み、「監督管理」が何回出てきたか数えられれば、あなたには立派な中国共産党員になる資質があると言えるだろう(答えは23回)。  最近では、もはや「抄了嗎?」の挨拶も消えた。誰もが書き写しているに決まっているからだ。  私は1995年、北京大学に留学していた時、国文学教授からこんな話を聞いたものだ。 「解放後、毛沢東主席は、『農民でも漢字の読み書きができるよう、10画以内に漢字を簡略化せよ』と指令を出した。こうして簡体字が生まれたのだ。  その後、漢字の簡略化は次々に進み、『習』の字の番になって『习』と簡略化した。ところが国文学者たちが、『雛鳥が巣で両羽を羽ばたかせている姿を象った漢字なのに、片方しか羽がなければ羽ばたけないではないか』とクレームをつけた。それで『習』の字をもって、漢字の簡略化を止めたのだ」  長期政権を目指す习近平総書記は、うまく羽ばたけるのか?

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