小話 | 異界交流記

小話

 ママチャリの後ろのかごの中にぎゅうぎゅうに白いわたがつまっている。よく見るとつまっているのはわたではなく羊である。この羊ははぐれた姉を探し試行錯誤で町中を縦横無尽にかけずり回り、とうとう自転車での移動は効率が悪いと諦め、きゅぽんとかごから抜け出しタクシーでの探索に切り替えた。タクシーは畑やら竹林やらを横切っていき、神社の横にある掲示板の前で止まった。羊は車から這い出て、いそいそと掲示板を見るがたいした情報はなく、頭を垂れ、運転手は金を払わない羊に腹を立て市場に売ろうとした所を通りがかった私はしょげかえる羊のあまりの可愛さに胸を打たれ、小脇に抱えて羊を持ち帰る事にした。
 とりあえずしまっておこうと、押し入れの中の布団と服が積み重なって出来た山の上に羊をほおりこんでおくと、姉に会えない寂しさと苛立たしさで羊は癇癪を起こしてキューキューと鳴きながら押し入れの中を激しくのたうち回った。羊が大量の服をかきまぜているうちに押し入れの中にあった私の姉が恋人のために編んだ真っ赤な手編みのセーターがほどけて羊毛にからまり羊の体に巻き付き、気付けばセーターは消失し羊は赤い羊になっている。私は、キューキューもがく羊を無理矢理押さえ込みながら、姉が帰ってきたらさぞかし怒るだろうなあと憂鬱になると同時に羊が憎らしくてたまらなくなり市場に持っていこうと考える。
 その後、精肉店の山城さんが言う事には、あの羊は食肉加工の時にはぐれた姉と再会できたそうです。よかった。