2024年春の新茶仕入れはなんと地震のあった4月3日に現地入りするという特殊状況からのスタートでした

今年に入ってからの茶園状況は日本にいる間から聞いていましたが、雨量は昨年よりはマシとのこと(昨年は観測史上でも劇的に雨が少ない冬)↓昨年の記事

ただ現地入りすると驚きの連続でした

 

まず清明節前の3月末から4月頭ころの気温は異常に高く、30℃を超えるまさに夏日の連続

 

体感でも現地入りした4月3日が一番暑く、逆に帰り際の5月末の方が涼しいというあべこべな気温でした

 

そして雨不足は今年も深刻で特に芽が出始めの一番水が欲しい時期に全く雨がないのが痛いところ

4月の低海抜の地域では写真のようにかなり繊維化が進んでしまった茶葉を多く見ました

 

本来なら春は柔らかさがあり芽数も多いのですが雨不足の影響で芽は少ない上に成長を止めてそのまま出開いてしまうことも

 

そのような状況から4月前半は冬茶のような生長の仕方で、実際出来た茶葉を確認しても春特有の‟春韻(春の味がのった)”を感じにくい品質でした

 

別の言い方をするなら味わいは弱く渋味も少なく全体的にどれもマイルドな傾向です

では中海抜や高海抜はどうかと言うと、昨年の阿里山ように茶樹が枯れてしまうほどの深刻さではありませんがやはり芽が出始めた一番欲しいタイミングには雨がない問題は同じ

写真は阿里山の様子ですが生産量は昨年に比べると回復はしています

 

ただ今年は例年よりも一週間ほど早く茶摘みがスタートし、標高1300Mあたりの青心烏龍が4月9日に摘まれているなど目を疑う場面にも遭遇しました(通常なら4月20日前後)

 

4月前半は先ほど述べたように春茶らしくない品質が続きましたが変化があったのが4月17日~20日の期間

 

ここでは春には珍しく大陸から寒気を伴う東北季風が吹き品質が一時的に向上した瞬間がありました

特に今回仕入れした中でも阿里山瑞里はまさにこの恩恵を受けた茶葉で、標高1200M程度のエリアではありますが寒気のバフによって標高が100~200M上がったような雰囲気が生まれました

 

お茶の面白いところであり怖いところがまさにこういうちょっとした気候の差や成熟度の違いで品質が大きく変化する点です

 

その後4月23日以降は台湾全土で天気が崩れてしまい、標高も高く茶摘みの最盛期を迎えるエリアが悉くうまくいかなくなったのが残念でした

この期間誰もが口にしたのが「この雨が一か月前にあれば…」です

 

名うて茶園や茶工場と茶師たちもこれにはお手上げ

 

仕入れに潮時と引き時があるとすればこの期間は完全に引き時で天気の回復を待って5月以降に勝負をかけるというプランでした

 

しかしここからが本当に難しい局面にぶち当たります

 

この4月末に降った雨が非常に曲者で、これまでの水不足から急に水を得ると今度は逆に成長が一気に早まっていきます

写真のように少し赤みを帯びた葉は夏茶が生長する時によく見られる現象

 

気温が高く水が多い環境では短期間で生長するのでその状況と似ています

 

出来立ては軽やかで爽やかな香味ですが、生長期間が短いだけに滋味は薄く保存には適さない傾向です

 

阿里山瑞里を仕入れて以降、さらに高海抜である杉林渓や梨山などを隈なく探してみましたが、どれも雨後の影響を受けて香味は上がるどころか下がる印象さえありました

今年の問題点を挙げるなら摘む前の原料にあると思います

 

萌芽から生育までの極端な雨不足、4月頭の急激な気温上昇、4月下旬の連日の雨、これら複数の気候的要因が加わり、十分な栄養状態でないまま早すぎる生長をした茶葉

 

さらにここでは語りつくせませんが、近年の製茶技術の問題と台湾茶業界が抱える大きな課題など、複雑に絡み合っており決して単純な単年度の気候問題だとは捉えられないと思います

 

過去一といっていいほどテイスティングを繰り返し探す範囲も広げても阿里山瑞里を超えるような茶葉に出会うことは出来ず、中途半端な仕入れをするくらいならいっそ仕入れない方針のまま帰国の時間となりました

 

しかしまだ諦めきれないので帰国前にあるサンプルを送ってもらうことを頼んでおきました

超高海抜ならではの寒暖差によってゆっくりと生長した分厚い葉肉、豊富な水分と養分を吸い上げた太い茎

 

4月下旬に降った雨が逆にいい方向に作用するとすればそれはどこか?

 

おそらく大禹嶺のようなそこから1か月後に摘む茶園ではないかと考えていました

 

段違いの清々しい爽快感と透き通るような味わい

 

そして何より喉を通ったあとの体を駆け抜ける感覚が別格の茶葉であることを教えてくれます

今回はこれまでと比較にならない大変な難易度の仕入れでした

 

このブログでは書ききれないことが山ほどあるので、これから各地セミナーでは仕入れた新茶を淹れながら更に深い内容について語っていきたいと思います

 

【2024年 台湾春茶の最前線 ~新しい局面を迎えた台湾茶業界について語る~】

 

名古屋・茶心居主催

日時:6月22日(土) 10時30分-12時30分

場所:茶心居

茶譜:大禹嶺、㊙特級白茶、阿里山瑞里、高山茶奏(冷茶)、陳年紅水佛手

 

大阪・茶遊サロン前田久美子先生主催

日時:7月15日(月・祝)

午前の部:10:00~12:00

午後の部:13:30~15:30

会  場:大阪市北区梅田1-1-3 大阪駅前第3ビル 21F

シルタス21階-C教室

 

栃木・中国茶メイクイ主催

日時:6月29日(土) 満席御礼

 

東京・ことこ茶店主催

日時:6月30日(日) ほぼ満席 ※直接ことこ茶店にご連絡下さい

 

静岡・食堂カフェ樵主催

日時:7月7日(日) ほぼ満席 ※お電話にて直接ご連絡下さい

 

富山・おおつか茶舗主催

日時:7月27日(土) 直接お問い合わせください

 

あべのハルカス神農生活で試飲会 

日時:7月14日(日)※予定

 

長くなりましたが最後に恒例の新茶紹介して終わりにします

 

四季春 冬片

  • 産地:松柏嶺
  • 製茶時期:2024 年 1 月上旬(冬片)
  • 品種:四季春
  • 発酵度:軽-中発酵
  • 焙煎度:なし
今年も高水準で安定した四季春冬片の登場です。華やかで高貴な花の香りを思わせる四季春は唯一無二の品種。冬の寒気の恩恵を受けた冬片の味わいはシルキーな味わい。高温で淹れても欠点が出るどころか四季春らしい華やかさが一層輝きを放ちます。四季春という品種を知り尽くした熟練の茶師により作り込まれた傑作
 
  • 産地:松柏嶺
  • 製茶時期:2024 年 1 月上旬(冬片)
  • 品種:四季春
  • 発酵度:軽-中発酵
  • 焙煎時期:2024 年 5 月上旬
  • 焙煎度:重焙煎 焙煎方法:電気式焙煎
高品質な四季春冬片を原料として使い3回の焙煎を経て熟香に仕上げました。重焙煎の葉底の理想的な色味はよく‟亀の色“と例えられますがまさにそのようになりました。中まで火を通しているので煎持ちが良く保存性も高まっています。ここから火の角がとれていくとまろやかさが増し四季春の華やかな香りが更に開いてきます
 
  • 産地:鹿谷鄉
  • 製茶時期:2024 年 2 月下旬(早春茶)
  • 品種 : 迎香(台茶 20 号)
  • 発酵度:軽発酵
  • 焙煎度:なし
爽やかですっきりとしていてとても飲みやすい王道の台湾茶。清香系の香味の中に青い果実を思わせる香りが心地よく漂い華やかさも感じさせてくれます。後味もよく飽きずに杯を重ねられる安定した味わい。焙煎タイプの凍頂烏龍茶もいいですが、爽やかな清香タイプを好まれる方や初めて台湾茶を飲まれる方に特におすすめ
 
  • 産地:阿里山大窯
  • 製茶時期:2023 年 4 月上旬(春茶)
  • 発酵度:軽-中発酵
  • 品種:金萱
  • 発酵度:軽-中発酵
  • 焙煎度:軽焙煎 焙煎方法:焙籠
魅力はなんといっても金萱らしい甘みのあるミルキーな香り。今年は気候の影響で多くの茶農家が金萱種の特徴を出せない中、例年通り安定した高品質を作り出してくれました。適度な発酵具合と春茶らしい爽やかさもあり、金萱茶ならではの魅力を存分に味わうことができます。今年も春季コンテストでは頭等奨を獲得!
 
  • 産地:阿里山ほか
  • 品種:青心烏龍ほか
  • 発酵度:軽-中発酵
気兼ねなく良質な高山茶をたくさん飲みたい方用に向けて作った TeaBridge オリジナルブレンド高山茶『奏(かなで)』。味や香りのバランスを考え幾度も配合を試して答えに辿り着きました。シングルオリジンも勿論いいですが廉価で気軽に楽しめる台湾茶もラインナップとしてあってもいいかなと思い創作しました。夏は冷茶も◎
 
  • 産地:阿里山瑞里
  • 製茶時期:2024 年 4 月中旬(春茶)
  • 品種:青心烏龍
  • 発酵度:軽発酵
  • 焙煎度:なし
阿里山の中でも“瑞里”と言えば阿里山茶の歴史を作ったと言ってもいい名の馳せたエリア。穀雨(4月19日)前の数日のみ訪れた寒気を伴う東北季風の影響で最高の気候の恩恵を受けました。茶水は例年よりもキメ細かく、瑞里特有の甘みある花香が阿里山瑞里の真骨頂を味合わせてくれます。今季の中で真に傑出した高山茶
 
  • 産地:大禹嶺
  • 製茶時期:2024 年 5 月下旬(春茶)
  • 品種:青心烏龍
  • 発酵度:軽発酵
  • 焙煎度:なし
最後の最後に出てきた台湾茶界のスーパースター大禹嶺。寒暖差ある場所で時間をかけて肥沃な土壌で育ったことがわかる太い茎、分厚い葉肉をまとっています。超高海抜でしか出せない清涼感は喉から体の中をかけ抜ける“茶氣”を感じます。煎を重ねるごとに広がる甘露な味わいが暑気を払い清々しさを与えてくれます