2026年台湾春茶の概況をレポートしていきます
今年も品質を語る上で重要な鍵は雨になります
昨年同様に台湾の中央気象署からデータを引用します
観測地は阿里山で2025年10月~12月、2026年1~4月の毎日の雨量の統計です(単位:mm)
このデータから読み取れるのは、今年は水不足という事実です
昨年冬茶の記事を振り返ります
時間のない方に向けて要約すると、『夏場は過剰な雨が降り、秋茶後は雨が降らない』という極端な気候でした
さらにおさらいをすると、昨年春は理想的な雨が降った年です
時間がある方は今年との雨量データを比較してみて下さい
つまり半年間まともな雨がなかったのが今年の春茶前の状況
これまでも何回も繰り返し説明していますが、雨がないというのは茶樹の生育にとっては厳しいです
雨があってはじめて肥料は溶けて地中の微生物が活発になります
分解された養分は水分と共に根から吸収され、芽を出し葉を肥やしてくれます
なので今年のような状況においては灌漑設備の有無がとても重要になります
水源がありスプリンクラーのように水を撒ける設備があれば、この状況をある程度緩和できます
ただそもそも水源自体がなかったり、あったとしてもその水源すら枯渇してしまうような干ばつだと設備があっても不十分と言えます
本当の意味で必要なのは地中深くまで浸透するようなまとまった量の雨です
人工で撒くことができる水には限りがあるということです
但し繰り返しになりますが、それでも今年は明確にこの灌漑設備があるかないかで品質に大きな違いが生まれる事は強調しておきます
それが今年の品質の明暗を分けた第一のポイントです
春茶前の恵みの雨があり3月3日と4月4日の両日
(※雨量データ画像黄色マーカーを参照)
今結果からみると、もしこの両日の雨がなかったら今年の春茶は一体どうなっていただろうか、と怖気がします
この雨はそこから約3週間後の品質と収量に大きく寄与しました
その後は4月24日、25日、30日など春茶の製茶期間中にも雨がありつつも、全体的には非常に安定した天候が続きました
特に気温は低く推移した為、茶葉が一気に繊維化することを防ぎ、穏やかな味わいと香りをもたらしてくれる要素となりました
そしてこのような両極端な好条件と悪条件がある意味で一層今年の状況をカオスにした側面があると思っています
今年は仕入れをしていて非常に予測困難な年だと感じていました
これまでここに書いてきたような分析は当然頭にはあり、このような干ばつも直近5年間をみても常態化したと言ってもいい程散々見てきました
それでは何が困難でしょうか
産地や時間軸という比較的広範囲に上記のような法則が当てはまりつつも、もっとミクロな個人の茶園単位でみると例外的なケースもあり、思わぬところから良茶が急に飛び出してくるようなイメージです
全体でみる気候を背景とした大きな文脈では説明の通り、雨不足で茶樹と土壌は活力不足、味わいは淡泊気味といった平凡な品質が大勢を占めると言っていいでしょう
その中にも“比較的”に良いものは確かにありますが、残念ながらそれは既に品質的にはある程度の上限が決まってしまっている“中の上”であって“極上”ではありません
見つけるべきはこの先天条件から離れた“特異点”を持つ極上茶
想像の通り、確率から言ってしまえば容易くないことは明らかです
非効率に闇雲に探すのもダメ 頭で決めつけて絞り過ぎてもダメ
理想的な茶が出てこないからといって、焦って手を出すのはもっと悪手
とにかく根気よく探し、出てくるのを信じて待ちます
(人事を尽くして天命を待つ、は好きな言葉です)
そんなこんなで「私の理想」と「現実の気候」というシビアな戦いを滞在期間約2ヶ月行ってきました…
今年の複雑怪奇な状況を踏まえるなら、個人的な仕入れ満足度としては過去一になると思います
このブログでもずっと言い続けていますが、地球規模で変わってしまった気候に対してどう対処し最善手を見つけるかの勝負です
今年で言えばまずは灌漑設備であり、そして茶園の地形や周辺環境が干ばつを防ぐ構造になっているか、です
実際に見つけ出す作業はこれまでの経験を踏まえながら、地道にコツコツと一つずつ茶園を回る、のみです
そしてそこから本当に素晴らしい茶を見つけ出した時の喜びは、まさにギフトであり自分がこの仕事を愛してやまない理由そのもの
今年はたくさん『比較』をして欲しいです
それは私のお茶だけでなく、という意味で
上記で説明をしてきた台湾春茶全体の品質傾向、それとかけ離れた特異点を持つ茶はいったい何が違うのか?
このような自然環境だったからこそ今年の茶を紐解くことは『本質に迫りやすい年』でもあります
それを教えてくれる理想の生きた教材が今年の新茶たちです
今年の環境では品種香や土地の味わいの違いが非常によく反映されており、
「四季春ってどんな香味だっけ?金萱は?」
「高山茶はどれも似た味わいに感じるけど本当に産地で違うの?」と思われている方にもうってつけのお手本教材です
※商品名とパッケージ写真からAmazonのリンクに飛びます
- 産地:杉林渓竹渓神木
- 製茶時期:2026年4月下旬(春茶)
- 品種:青心烏龍
- 発酵度:軽発酵
- 焙煎なし
杉林渓には樹齢2000年程の神木があり仕入れた茶は神木付近の茶園です。近くに加走寮渓という渓谷があり、この一帯は年中深い霧に包まれ高い湿度が常に保たれています。杉林渓の特徴である『冷礦杉味』と呼ばれる深い森林を思わせる香りと味わいで、“正にこれぞ王道杉林渓”と杉林渓高山茶ファンを唸らせてくれる一杯。緑の爽やかな高山茶好きはこちら!
- 産地:仁愛郷翠峰
- 製茶時期:2026年5月上旬(春茶)
- 品種:青心烏龍
- 発酵度:軽-中発酵
- 焙煎なし
滅多にお目にかかれなかった翠峰らしい翠峰高山茶です。香りはジャスミンや熟れた梨や桃、朝露に濡れた竹の葉を思わせる複合的で豊かな香り。緑系軽発酵が多数を占める翠峰茶にあって貴重な輝く黄金色を持った美しい発酵度。他の産地にはない翠峰ならではの高貴な香りと長く優雅な余韻を『金霞清韻』と命名しました。特に香りにおいて今回みた全ての高山茶の中でもっとも抜きんでた銘茶
- 産地:阿里山特富野
- 製茶時期:2026年5月上旬(春茶)
- 品種:青心烏龍
- 発酵度:中発酵
- 焙煎度:三分火
- 焙煎方法:電気
阿里山特富野の高山茶を使用し焙煎で仕上げをしました。焙煎度“三分火”は100℃前後の温度帯を使用しながら長い時間かけ奥までしっかり通しています。高山茶には珍しい部類の高い発酵を持ち、阿里山らしいしっとりした甘みと焙煎による蜜のような香りが広がります。煎を重ねる度に変化する香味がいつまでも魅了し続けてくれます。焙煎があるお茶が好き、強すぎない軽めの焙煎が好きな方に向けて丹精込めて火入れしました
- 産地:松柏嶺
- 製茶時期:2026年1月下旬(冬片)
- 品種:四季春
- 発酵度:軽発酵
- 焙煎なし
ひと口で“台湾茶の世界へようこそ”を体現してくれる入門茶であり、これまでいい台湾茶はたくさん飲んだという玄人にお勧めしたい四季春。気品のある花の香りを思わせる甘い香りと爽やかで透明感のある味わい。「これ本当に四季春ですか?」その言葉を幾度とお客様から頂きましたが、今季もその格に相応しい極上品です。どれにしようか悩んでいる方にはまず飲んで欲しいお茶です
- 産地:松柏嶺
- 製茶時期:2026年3月下旬(春茶)
- 品種:四季春
- 発酵度:軽-中発酵
- 焙煎度:軽-中焙煎
- 焙煎方法:龍眼炭焙煎
良質な四季春を原料に龍眼木炭を使い丁寧に火入れをしたお茶が龍眼六季(TeaBridgeオリジナル)です。品種由来の甘みのある香りに焙煎によって特有の甘みとコク、ナッツのような味わいに変化。炭焙煎といっても軽い火入れなので味わいに軽やかさも残り少しスッキリとホッコリを両立したとてもバランスのよいお茶。水出し冷茶にしても大変相性が良い定番人気茶。唯一無二の味わいをお探しの方へおすすめです
- 産地:鹿谷郷
- 製茶時期:2026年4月上旬(春茶)
- 品種:迎香(台茶20号)
- 発酵度:軽-中発酵
- 焙煎なし
いつ飲んでもスッと身体に入っていく気持ちのいい清涼感と甘露でまろやかな味わい。いつでもつい自然と手が伸びてしまうのがこの凍頂烏龍茶の真骨頂です。新品種・迎香の持つ特有の甘みのある香りが高山茶の清香とはまた少し違った個性と魅力をこの茶に与えています。「何か台湾茶を飲みたいけどどれがいいかな」。迷ったら是非これを飲んで下さい。私自身が家でよく飲むお茶の筆頭でもあります。“良質”という言葉がぴったりです
- 産地:阿里山大窯
- 製茶時期:2026年4月上旬(春茶)
- 品種:金萱(台茶12号)
- 発酵度:中発酵
- 焙煎なし
昨今良質な金萱らしい金萱の香りを持った茶が減っている中、今季も素晴らしい金萱茶の登場です。口に含むと口腔いっぱいに金萱特有の甘いミルク香が広がります。標高も高いので香りだけでなく味わい自体に品があり、飽きることなく何煎でも杯が進みます。適切な発酵の高さと金萱品種由来の甘みが渾然一体に馴染んでいる至高の金萱茶!
金萱好きならば外しのない安心して選んで欲しい『The 金萱』
- 産地:梨山
- 製茶時期:2026年5月中旬(春茶)
- 品種:青心烏龍
- 発酵度:中発酵
- 焙煎度:軽焙煎
- 焙煎方法:電気
貴妃茶は一般的に夏や秋に作られますが春の良質な茶を使用。更に標高2000Mを超える梨山という数多の偶然が重なり合わないと出てこない茶。何より製茶技術の見事さ。発酵は低過ぎず高過ぎず高山茶の美しさをちゃんと残しつつ、他の蜜香系茶と一線を画す“貴妃茶ならでの韻”があります。甘く優雅な蜜香と奥行きを備えた“貴妃茶”というジャンルのひとつの最高到達点
今年も各地でセミナーやお茶会などをやっていきます
文章では到底書ききれない程に今年の状況は非常に多種多様であり、深掘りしがいのあるテーマだと思います
お茶は本当に正直な飲み物であり、自然界で起こったことが素直に品質として反映され、私たちにその物語を雄弁に伝えてくれる面白い嗜好品です
飲んで読み解く台湾茶の面白さ
お茶はとにかく先ず飲める、というのがいいのです
そして、その先にある深い物語…
また飲んで感じた感想を皆様よりお聞かせ頂ければ幸いです
























