「皆さん、ご迷惑をおかけしました」

そう言って俺達に
深々と頭を下げた。
俺は固まってしまった。

最悪の事態が起こったのかと思ったら、
すぐに言葉が続いた。

「意識が戻りました」

その言葉を聞いた瞬間、
俺達の喜びようと言ったらなかった。

ワン公の奇声と
こてっちゃんの叫び声が
院内に響き渡った。

俺はあたりめーだよと思った。
散々不安になっていたくせに。

自分が不安になっていた事を
恥じるように、
アカシがあんな事位で
死ぬわけがないだろ!と
俺自身に言い聞かせていた。

「ただ…」

そう言って
お母さんがちょっとうつむいた。

これ以上
俺を揺さぶるのはやめてくれ…

天国から
地獄に突き落とされるのは
ドラマだけで十分だ…

そう願って続きを聞いた。

「安静の状態なので
面会はまだ出来ないんです。
それと…
これは伝え難い事なんですが…
せっかく皆さんに集まってもらってるので、
正直に言いますね。
夫がもう皆さんとは
アカシを付き合わせたくないと
言っています。
私はアカシと皆さんが
仲良くしてくれるのは嬉しいですし、
そうは思いませんが、
自分の子供が傷だらけになって
帰ってくるのを
見ていられないのも事実なの。
悪く思わないでね。
喧嘩とかじゃなくて、
普通に遊んで欲しいの。
皆の親もそう思ってるはずよ」


アカシの容態が
最悪の状態ではないと
分かっただけでもよかった。

ただ、
皆はさっきまでの喜びが
嘘のようにしょんぼりしてしまった。

「アカシに会わせて」

今は面会出来ないのは知っていたが、
俺は黙っていられなかった。

「ごめんね。今は…」

「アカシはもう大丈夫?」

「ええ。後は安静にしていれば回復するって」

「そっか…よかった」

「達也君、来てくれてありがとうね」

親の心、子知らずとは
よく言ったものだが、
子供は親の意に反して
悪さをするものだ。

でも俺は、
悪さをしているというより、
ただ強くなりたいと
思っていただけだ。

強くなれば
親を悲しませる事はない…?

いや待てよ、
俺が強くなっても
俺と喧嘩をした相手の親は
傷ついた自分の息子を見て
悲しむだろう。

そして人を傷つけた
俺の親もまた悲しむだろう。
頭の中が堂々巡りになった。


ただ間違いないのは、
俺の喧嘩は強くなろうと思う者同士の喧嘩だ。

強さを求めない人間は
ボンタンなんて穿かない。

俺はそういう男達と喧嘩をしたんだ。

俺の喧嘩を止めることは誰も出来ない。

アカシなら何て言うんだろう…

眉間にシワをよせながら
考え込む俺を見て
美咲が俺の肩をポンと叩いた。

「達也、帰ろうぜ」

「皆さん、来てくれて本当にありがとうね」

その時だった。
外から

「フォン!!」

というバイクのアクセルを吹かす音が聞こえた。

美咲はしまったという顔をして
ポケットに手をやった。

「鍵…付けっ放しだった!」

美咲が外に向かって走り出した。
俺も走って追いかけた。
外に出るなり美咲が叫んだ。

「てめー!人のバイクに勝手に触るんじゃ…ね…」

そこには美咲のバイクに
跨ったアカシがいた。

次回

再会(5)
つづく