「達也ぁ!そんなんでついてこれんのかぁ?」

「ちょっと待ってよ!」

「勇気出せよ達也ぁ!」

「うるせーー!」

「早くしねーと先行っちゃうぜ?」

「うぉぉぉぉぉ!!」

アカシのテールランプがどんどん遠くなっていく。



「達也!電話!」

親父の声で起こされた。

俺は夢を見ていたようだった。

アカシと並んで
バイクで走っている
夢だった。

どんどん先に進む
アカシを俺が追いかけ、
追いつきそうになると
アカシはまた
スピードを上げて離れていった。

スピードを上げても上げても
アカシは遠く離れ、
見えなくなってしまった。

嫌な夢だった。

不安が頭をよぎった。


筋肉痛と
怪我の痛みのせいで
歩くのも辛かったが、
信男からの電話かもしれないと思って
急いで電話に出た。

「もしもーし」

「達也!怪我どうよ?今から家寄るから待っててー!」

ワン公だった。


アカシがどうなったか
気になって仕方がなかった。

でもこてっちゃんには
学校に行けと
言われてるし…

それをアカシも
望んでいると言われた俺は
完全に自分の思いと
板ばさみになっていた。

俺は無言でテーブルの上に
握ってあったおにぎりを食べた。

目の前では
親父がタバコをふかしながら
新聞を読んでいた。

「達也、傷、いてーか?」

「…大丈夫」

「おまえ、中学生と喧嘩したらしいじゃねーか」

「…」

「カッカッカ(笑)喧嘩はよぉ、ココなんだよココ」

そういって自分の頭を指差した。


「違う。喧嘩は力だよ」

「アカシ君を見てみろよ。頭が良いから喧嘩もつえーんだよ」

「こてっちゃんと信男はバカだけどつえーよ」

「カッカッカ(笑)」

強くなりたい俺には、
この親父の話は
興味深かった。

どういう事なのだろうかと
少し考えてしまった。

俺も勉強したら強くなるのか?
勉強…やだな。
でもやれば本当に強くなるのか?

それとも別の意味があるのか。

要するに親父は
俺に学校に行って
勉強しろって事が言いたいのか?

仮にそういう意味だったとしても、
頭ごなしに
勉強しろと言われるより、
喧嘩中毒に
なりかけていた俺には
考えるキッカケとなる言葉だった。

ただ、何故
頭の良さと喧嘩が
関係があるのかが
分からなかったので、
すっきりとはしなかった。

両方兼ね揃えた
アカシという一例があるだけだった。

「達也、今日はよぉ」

学校に行けと
言われるんだろうなと思った。

「病院に行って来い」

「え??」

「学校には風邪ひいて休むって電話しとくからよ」

思っている事と
逆の事を言われたので
俺の心はぐらついた。


本当はすぐにでも
病院に行く!
と答えたかったが、
俺は親父の言葉を
素直に聞き入れられなかった。

押してだめなら引いてみろ
という言葉があるが、
俺は親父に
一歩引かれた気がして
面食らってしまった。

天の邪鬼な俺を
学校に行かせる作戦なのかと
考えてしまった。

「だってさっき喧嘩は頭だとか…」

「なぁ達也、それより大事なもんがあんだよ。友達は大切にしろ」

俺の邪推だった。


「ありがとう」

今度は素直に言えた。

「ただよぉ…」

「何?」

「勉強すんなって事じゃねーからな(笑)」

「わかった」

「義務教育だけはちゃんと卒業してくれや(笑)」

俺は無言でうなずいた。


その時玄関の開く音がして、
「たつやー!」
とワン公の声が聞こえた。

本当に行っていいの?
という気持ちが
まだ残っていたので
振り向いて親父を見た。

すると新聞を読みながら
俺の方も見ずに
手を上げて
指でOKサインを出していた。

次回