初めての方プロローグからどうぞ
「てめー沼田ぁ!」
日向がそう叫んだ時に
既にアカシの足は
沖浦の顔の真下まで来ていた。
次の瞬間、
沖浦の顔は蹴り上げられ、
今度はのけぞるように
身体が浮き上がり、
後ろに半回転し
背中から地面に落ちた。
あまりにも一瞬の出来事に、
沖浦はおろか
見てる俺達でさえ
息をつく間がなかった。
考える隙を与えてはくれなかった。
アカシの足が今度は
仰向けになって
倒れている沖浦の顔面に
振り下ろされようとした。
「アカシ!」
こてっちゃんの声で
アカシの足が
沖浦の顔面スレスレの所で停止した。
あまりの出来事の連続に、
この場に数秒間静寂に包まれた。
俺は沖浦が死んだと思った。
ピクリとも動かなかった。
アカシはその場にしゃがみ、
沖浦の顔を覗き込んだ。
そして沖浦の耳元で
「沖浦ぁ!エサの時間だ!」
と叫んだ。
すると
沖浦の指がピクリと動き、
小さな声で
唸ったようだった。
俺には聞こえなかった。
この一連の流れの中、
西中のやつらは
一言も発しなかった。
それとも発せなかったのか。
「日向ぁ!
さっさとこいつ引っ込めねーとよぉ、
焼き豚にすんぞ!?」
そう言って
アカシはタバコに火をつけた。
日向は腕組みをして
真っ直ぐにアカシを
睨み付けていたが、
その腕をゆっくり解くと、
後ろに合図を出した。
そして数人が
沖浦に駆け寄り、
担いで自分達の場所まで運んだ。
「日向ぁ、俺はよぉ、
てめーとヤりに来たんだよ。
格好良いとこ見せろや!?」
そう言われると日向は
首の骨を鳴らしながら
ゆっくりと
学ランのボタンを外し始めた。
「日向さん!」
西中の誰かが叫んだが、
日向はそれを制するように手を挙げた。
「日向ぁ、
やっと大将のお出ましだなぁ?」
日向は脱いだ学ランを
見守る仲間達に投げ渡した。
そして両手を
ボンタンのポケットにしまった。
「沼田ぁ、来いや」
「てめー日向ぁ!ナメてんのか?」
「いいからよぉ…こいよ。
俺と喧嘩してーんだろ?」
アカシは明らかに苛立っていた。
「てめぇ…」
「こねーなら帰んぞ?なぁ皆?」
西中の奴等は
キャハハハと笑った。
アカシは
日向に向かって走り出した。
次回
◆五本松の決闘(5)
◆
へ続く