初めての方プロローグからどうぞ


まだ知り合って間もないが、
兄が居ない俺にとって、
アカシは兄貴のような存在になっていた。

アカシは友達として
接してくれているが、
俺にはどうも他人と思えないような感じがしていた。
兄貴という表現が
一番しっくりきていた。

アカシは圧倒的な強さと
圧倒的な優しさをもっていた。

何よりも
対等に接してくれていた事が
俺とワン公を惹きつけた。

夏休み最後の日、
俺達はアカシの部屋に呼ばれていた。
部屋に入ってびっくりした。

本棚には参考書と
俺には題すら読めない
難しい本がずらりと並んでいた。

そして壁には
狛江愚連隊と書かれた
バカでかい特攻旗。

小奇麗に整頓された部屋には
似つかない特攻旗と、
本棚には数え切れない参考書。
そんな中に赤髪のアカシがいる。
異空間だった。

特攻旗とアカシは結びつくが、
参考書とアカシが結びつかなくて
俺は最初黙っていた。

「達也、秀樹、びっくりしたか」
いつもの笑顔で語りかけてきた。

「アカシさん勉強できるんスカ?」
「こらこら(笑)秀樹、俺だってたまには勉強すんよ」
「すげー参考書の数ッスけど(汗)」
「アカシ、頭良いん?」
「あたりめーだよ」

冗談で言っているのだと思った。
族もやってて、
喧嘩も無茶苦茶やってて、
小学生と
にこにこ遊んでるアカシ。

そんな男の口から
勉強という言葉が出ただけで驚きだった。

部屋にはこてっちゃんも信男もいた。
俺がアカシに聞いた。
「勉強楽しい?」
「全く楽しくねーな(笑)」
「なんで勉強すんの?」
「ん~」

こてっちゃんが口を開いた。
「アカシはよぉ、」
そう言い掛けたところで
アカシがこてっちゃんを静止するように言葉をかぶせた。

「俺はよぉ、医者になるんだよ」
俺もワン公もポカンとしていた。

医者はアカシの生きる世界とは
真逆の世界に思えてならなかった。

実際のアカシを見たら
医者のいの字も連想できない。

「俺はよぉ、ガキん時に病気で兄貴を亡くしてるんだよ。そん時に決めたんだよ」

この時初めて
兄貴がいたんだと知った。

こてっちゃんが色々話を補足してくれた。
アカシは本気で医者になろうとしてる事。
学校の成績は常に一番だという事。
狛江愚連隊という暴走族に入ってる事。
俺はますますアカシとうい存在が不思議に思えた。

「俺はよぉ、
全てが全力なんだよ。
仲間も遊びも喧嘩も、夢もよぉ」

「本気?」

「もちろん。
夢だけおいかけたら近道かもしんねーけどよぉ、
俺はそんなに器用じゃねーよ。」

遊びも喧嘩も勉強も
同時に全力でやれる事のほうが
器用だとツッコみたかったが、
アカシが言いたい事は
そういう事ではなかった。

「同じ天秤では量れないもんなんだよ」
そう言われた。

今同じ位自分に必要なものをどちらか捨てて、
どちらかを選び、
自分を納得させる程の器用な心は
持っていないという事だった。

「俺は全部掴むからよ。
人生みじけーもんだよ。
兄貴を見てそう思ったよ。
やってみなくちゃ何もわかんねーよ。
俺は不器用だからよぉ、
全部抱えて突っ走るだけだよ」

部屋の中は
タバコの煙で真っ白になっていた。

「よっしゃ!
んな話はもーいいからよ!
達也!秀樹!
おまえら上着脱げ!」

アカシが
自分から上着を脱いで
上半身裸になった。

何をされるか分からなかったが、
俺達も
強引なアカシにつられて
上着を脱いだ。
「よっしゃ!信男!あれ出せ!」
そういわれると信男は
バッグから大量のオキシドールと
霧吹きを取り出した。

数時間後、
俺達は赤茶の頭になって
アカシの家を出た。

なんだか気分は爽快だった。