初めての方プロローグからどうぞ


釣り糸を垂らしながら俺はアカシに聞いてみた。
「恥ずかしくない?」
「何が」
「小学生と一緒に遊んでてさ」
「ばかやろ。
達也、俺はなんでも全力だし
壁はつくらねーんだよ」

壁を作らないという点と
勉強という事以外では
俺と似てると思った。

「達也、ゲーセンの前で言った通りなんだよ。
歳なんて関係ねーだろ。
友達になりたいと思ったから
友達になるんだよ。
笑ってた方がたのしーだろ?」

「その髪どうやった」

「これか!達也もやれよ。
オキシドールで一発だからよ!」

「やらねー」

「なんでだよー」

「俺、やりてーッス!」
ワン公が口を挟んだ。

「おー!秀樹!
おまえはえーやっちゃのう!
よっしゃ、教えたる(笑)」

俺は多摩川を眺めていた。
なんだか楽しかった。
「キターーーー!」
こてっちゃんが叫んだ。
竿が折れんばかりにしなっている。
「おおおーーー!」
皆立ち上がってこてっちゃんに駆け寄った。
「ヒョーーー!」
「鉄矢!あげろ!」
「ぅおりゃーー!」

バシャバシャと音を立てて
一匹の鯉が釣り上げられた。

俺達の興奮はピークに達していた。
「でけーなぁ!」
「あったりめーよ!」
誇らしげなこてっちゃんの横で
ワン公の竿が川に引きずられていた。
「ヒョーーーー!」
ワン公にもあたりがきていた。

結局この日は
こてっちゃんに鯉が一匹、
フナが全員に一匹ずつ釣れた。
「達也、秀樹、鯉食った事あるか?」
「ないよ」
「自分ありマス」
「よし!じゃあ達也、
持って帰って母ちゃんに食わしてもらえ!」
「やだよ」
「ばかやろ。うめーんだよ」
無理矢理ビニール袋に入れられた鯉を持たされ、
俺達は帰路についた。

帰り道、
ワン公はお気に入りのこてっちゃんにべったりだった。

俺は信男が漕ぐ
自転車の荷台に座らされていた。

信男は方向が違うので途中で別れた。

アカシはにこにこしながら満足げにタバコをふかしていた。

夏休みも残りわずかになっていたが、
この日を機会に
ほとんど毎日のように遊んでもらった。
遊んでもらったと書くとアカシに怒られそうだ。
遊んだという事にしよう。