初めての方プロローグからどうぞ
この日以来、俺はゲームセンターでお金を使った事がない。
俺達はこれを「カチカチ」と呼んだ。
毎日ヒデキにカチカチをやってもらい、自然と俺もそのやり方を覚えた。
ライターがあれば誰にでも出来る芸当だった。
ヒデキは背が高いから年上だと思っていたが、同じ学年で隣のクラスの奴だった。
いつも下をむいていた俺は、ヒデキが同じ学年にいたなんて知る由もなかった。
友達が居なかった俺にとって、入学以来こんなに話したのは初めてだった。
翌日から休み時間の度にヒデキは俺の教室に遊びにきた。
俺も遊びにいった。
ヒデキは教室に来る度にヒューヒュー言いながら女の子のスカートめくりをするもんだから、仲良くしてる俺まで非難の目で見られた。
それは別に嫌ではなかった。
ヒデキとは何故か気が合った。
周りの事よりも、こいつといると面白いという思いの方が完全に勝っていた。
俺をイジメていたやつらもヒデキには口を出せず、煙たそうに見ていた。
俺とヒデキは育った環境が似ていた。けして裕福な家庭で育ったわけではなかった。
そんな事は当時考えもしなかったが、何故か気が合った。
ヒデキとはよくゲームセンターや多摩川に釣りにでかけた。
家にも行ったり来たり。
俺は孤独ではなくなっていた。
「タツヤ!勉強しなさい!」
家に帰ると母ちゃんはこれしか言わなくなっていた。
俺はヒデキと毎日のように遊んでいた。
そして時間が流れ、3年になりクラス替えでヒデキと一緒になった。
遊びに全ての体力を使っていたせいか、俺は完全に勉強をしなくなっていた。
何をして遊ぼうか、今日はどんな悪戯をしようか、そんな事ばかり考えていた気がする。
自分がイジメられていた事なんてとっくに忘れてしまっていた。
そして、そんな事はもうどうでもよくなっていた。
こち亀の両さんじゃないが、人んちの前に犬のフンをもっていき、それに爆竹を刺して逃げるような事もした。
当時はカミナリオヤジと呼ばれるじいちゃん達があちこちにいたから、ほうきを持って追いかけられた事もあったよ。
俺達はすぐにリベンジしに行った。
自分達からしかけたのにリベンジも何もあったもんじゃないが。
「タツヤくせーなぁ!」
「うるせー、ヒデのはうさぎのフンか?もっとでかいの出せよ」
俺達を追いかけまわしたカミナリオヤジの玄関に二人で糞をしてやった。
この頃の俺は、うつむいてばかりの入学時からは想像もつかない位のワルガキになっていた。
このエネルギーを勉強にぶつけたらよかったのだろうが、俺のベクトルは完全にヒデキとの遊び一本だった。
不思議と親父は何も言わなかった。母ちゃんだけは顔を合わせる度に
「勉強しないと立派な大人にはなれないわよ」
と言われた。
立派な大人が何なのかまだ分からなかったから、
当時の俺には無意味な言葉だった。
そんな3年の夏休み、俺達に事件が起こった。
続きは第5話ワン公 へ