初めての方プロローグからどうぞ  


俺への悪口なら、我慢するつもりだった。


落書きには

「ステテコ親父」

と書かれていた。


親父への悪口に、気がついたら椅子を持って窓ガラスに向けて放り投げていた。
「ガシャン!」
「キャー!」

という女子の声でふと我にかえり、居心地の悪さがすぐに沸いてきた。

いじめっ子達はあっけに取られて目を丸くしていた。


俺はランドセルを背負ったまましばらく立ち尽くしていた。

正確に言うと動けなかった。教室は静まり返ったままだし、何かとんでもない事をしでかした気がして、その静寂を破るのが怖かった。



「たつやく…」
女の子の言葉を最後まで聞く前に俺は走り出していた。一刻も早くその場から立ち去りたかった。
行く場所も無かったし俺はそのまま家に帰った。

きっと怒られると思っていたから足取りも重かった。



応答が無かったからそのまま自分の部屋に行こうとしたら親父がステテコ姿で寝ていた。



「ただいま」
「やべぇ、寝過ごした!」
親父は寝ぼけていた。
「ただいま…」
「学校はどうした」
「…」
「どうしたんだ?」
ボソボソと自分がやった事を話し出した。

いつゲンコツが飛んでくるかビクビクしながら。


「そうか。スカっとしただろ?」
親父から返ってきた言葉は全く予想外の言葉だった。
「ただもうそんな事しちゃだめだ。わかったか。」
「…うん」
親父は何かっていうと口よりさきにゲンコツだった。

そんな親父にゲンコツされない事がまた少し怖くなった。


十分程経っただろうか。
「タツヤ、学校いくぞ」
知らない内に親父はシワシワのスーツを着ていた。
「やだよ」
言うよりも早くゲンコツがきた。
「謝りにいくぞ」
いつもの親父だったからちょっと安心した。


それから俺は親父に引き連れられて学校に行った。
放送室には担任の先生と親父と俺。先生も事情を理解し、明日からまた普通に登校するようにと言われ、今日はこのまま帰って良しとなった。


帰り道、親父が
「ラーメンでも食うか」
と言って来たので、
「行く」
とだけ答え、学校のすぐそばのラーメン屋に入った。
親父は俺に聞くまでもなく味噌ラーメンの大盛りを2つ頼んだ。
「食べきれないよ」
「黙って食え」
親父はタバコに火をつけ、俺に言った。

しばらくしてラーメンが運ばれてきてまた新しいタバコに火をつけて親父がラーメンを食べ始めた。
親父は家でもタバコを吸いながら飯を食った。母ちゃんに怒られながらも、
「これがうめえんだよ」と言いながら。


この数年後、俺は全く同じ癖を身につける事となる。


続きは・◆第3話-「ヒョー!」◆