アレックスは私の友達だ。
マレーシアのデカい私立病院の放射線科で私と同じような治療をしている。
早口の英語でしゃべりまくるが、何を言っているのか意味不明のことが多い。
中国系のマレーシア人なので、中国語も話す。
私の秘書は語学に堪能で、様々な種類の中国語と英語と日本語をしゃべるが、彼の中国語も英語も何を言っているのかよくわからないという。
だから、彼の英語がよく解らないのは私のせいではない。
アレックスは世界中に沢山の友達がいて、私はその末席に連なっている。
アレックスの生い立ちは良く分からない。
なんだか貧しい家に生まれたらしく、お金のない人の気持ちがよく分かるらしい。
道理で彼が発表する治療は、あまりお金の掛からない治療ばかりだ。
でも、最近プール付きの家を買ったらしく、プールを満たすのに水道代がかかって仕方がないと言っていた。
5年前、マレーシアで放射線科の大きな学会があり、アレックスが大会長であった。
世界中の有名どころが沢山集まり、学会は大成功であった。
私は彼から無理難題の発表をいくつも頼まれ、結構大変だったが、「お前のおかげでうまくいった」とベンチャラを言われ、苦労は霧散した。
学会の最終日、彼が閉会の宣言をした後、私にすぐには帰るなと言う。
来いと言われた場所は、学会場の前の公園がよく見える場所だ。
小さなテーブルを何人もが囲み、アレックスがいる。
テーブルの上には、ドリアンの山がある。
まずい!と感じた私は通り過ぎようとしたが、目ざとく私を見つけた彼は、こっちに来いと手招きをする。
仲間に合流した私は、ドリアンの食べ方、猫印のドリアンが美味しいこと等、色々教えられたが、それ以上はもう思い出したくない。
ドリアンの仲間には、現在アメリカの放射線学会長になっている美人の女医さんもいた。
昨年、アメリカで彼女に会った。
彼女とドリアンの話で盛り上がった後、彼のことをドリアン王子と呼ぶことにした。
今年の春、再びマレーシアに呼ばれた。
ドリアン王子に会う予定はなかったが、私が来ると判り昼飯を奢ると伝えてきた。
火鍋だという。
辛い物は得意ではない私は、生涯この手の料理は避けてきたが、手招きされては仕方がない。
ドリアン王子は、私のために何十種類のスパイス、薬味をドロドロに混ぜたソースを作ってくれた。
ドリアンより受け入れられる。
何とか火鍋パーティはやり過し、アレックス、楽しかったねと挨拶をした。
「これだけじゃないよ、せっかく大阪から来たんだから」、ドリアン王子は確かにそう言った。
やばい!と感じた私は、「お腹いっぱい」と言ったが、「こんないい機会は逃す手はない。
猫印が待っている」、と言う。
かくして私たちは、クアラルンプールの町はずれのテントの屋台のような所に連れてゆかれ、トゲトゲの機雷のような猫印のドリアンを分かち合った。
肝を据えた私が、たくさん食べると、そんなにうまいかと、2つ目、3つ目のドリアンが、目の前でパカンパカンと割られ、ドリアン腹になってしまった。
人に言わせると、2,3回食べると病みつきになるらしい。
でも、私は人の百倍一気に食べたので、もう食べる必要はない。
その日以来、私はアレックスのことを、ドリアンキングと呼んでいる。
近々、ドリアンキング、日本に来るらしい。
納豆を勧めたいところだが、そんなのチョロすぎると思っている。