兄がモンゴルで小さな旅行社を経営している。
その兄に頼まれ、泉佐野市民病院が新築移転した時に、余った医療材料をモンゴルの病院に送ったりした。
その縁もあって泉佐野市とモンゴルの町に姉妹都市交流が生まれたらしい。
何年か前、市役所の重鎮がモンゴル訪問団を作りウランバートルに出かけた。
事の経緯は覚えていないが、私もその一員になった。
お役目としてモンゴルのがんセンターで講演をする羽目になり、少しはモンゴルとの親善交流にお役に立ったつもりでいる。
その2泊3日の弾丸ツアーの帰りである。
ウランバートルからインチョンに向かう飛行機の中で、いやに態度のでかいのがいた。
体格もでかく、CAさんにも横柄である。
あいつ、なんだかどこかで見たような・・・・?
ほどなくして、モンゴル人の有名人なら、「朝青龍」に違いないと気づいた。
印象が悪いのはなるほど、と納得できる。
インチョンの乗り換えカウンターで再度「朝青龍」発見、なんだかカウンターで少しもめている様子。
隣にいた私にやおら「ドルの小銭もってる?」と聞く。
イカン、ヤバイ、カツアゲか?と一瞬思ったが、切符を買うのに100ドル札しかなく、お釣りをもらえないから、両替できるかとの質問であった。
その場をどう切り抜けたか忘れたが、私たちは無事に関空行きの飛行機に乗った。
私は秘書と一緒だったので、モンゴルで面白かったことなどなど、大きな声で笑いながら話していたらしい。
通路を挟んで斜め後ろにいた「朝青龍」、突然、『そこのお二人さん、楽しそうじゃん』と話しかけてきた。
いきなり有名人に話しかけられて、戸惑ったが、「朝青龍」の態度がいやに馴れ馴れしい。
敬語なんか一切使わない。
私なんかより1万倍有名なのだから立場上、私は敬語を使うべきかと考えたが、それではどうもその場の会話が弾む感じもない。
ほんの数分で、なんだか友達と話し合っている雰囲気になった。
『朝青龍君』とは色々と話が弾んだ。
『私』:実はね、関空の前でがんの治療してて、モンゴル人の患者も治療できるよ。
『朝青龍君』:(私の名刺を眺めながら朝青龍君はしばらく考え)、『そんな治療はモンゴル人にはあんまり重要じゃないよな』と言う。
『私』:(モンゴルがんセンターで講演までしてきたのに、)、モンゴルでも困っている人、いるよな?
『朝青龍君』:なんでもない病気が、モンゴルじゃ治らないんだよ、そっちの方が数も多いし、がんよりそっちが大事じゃん』
『朝青龍君』:(太い二の腕をまくり上げて)、俺、モンゴルで手首を怪我したわけよ、モンゴルの医者にかかったけど、全然よくならず肘まで腫れちまってね、それでこりゃイカンと思って、日本に来て知り合いの京都の医者に処置してもらい、すぐによくなりはじめ、時々、こうやって時々そのためだけに日本に来るわけよ。
『私』:ちょっと診せて、、(そういえば兄貴も同じようなことを言っていたっけ、)
相撲の話は一切しなかったけど、なんだかいい友達ができたような気がした。
こいつ、賢いよな、事の本質をとらえる力があるよな、そんな感じがした。
関空で、『連絡おくれ、いつでも相談に乗るよ』、と言って別れたが、その後、なんの連絡もない。
でも、またいつかどこかで、『よう! どっかで会ったけな?!』って挨拶するような気がしてならない。
次は、『朝青龍君』、なんて呼ばず、モンゴルの名前で呼ばせてもらうよ!