私が堂々と自慢できるのは、チューリップの達人と呼ばれていることであろう。
母親の住んでいる家の隣が少しばかり空き地になっている。
家に囲まれた土地なのでいささか日当たりに問題があり、さらに砂地なので水はけが良すぎる。
肥料をどっさり入れて野菜作りを試したが、毎日の水やりを忘れるのでいかんともしがたい。
チューリップなら大丈夫と聞き、肥料をたっぷり入れて畝を作り、赤白黄色といろいろ買ってきて植えた。
これが意外にうまくゆき、球根を掘り上げ、次の年に植えたりするのが楽しみになった。
もちろん球根の管理に失敗したりしたが、数々の経験を積み、以下の方法を完成させた。
まず、花が終わり葉っぱが枯れだしたら、球根を掘り上げ土がついたまま、風通しの良い場所で2週間ばかり乾かす。
次に、土を落とし大小の球根をバラバラにして再び2週間ばかり乾かす。
そののち、大小を分けて、20個づつ新聞紙にくるみ、段ポール箱に入れて翌年秋まで保管する。
11月の初めころに肥料をたっぷり入れて畝をつくり、2週間ほど待って、球根を10㎝間隔くらいでぎっしり植える。
次の春、大球根は立派な花を咲かせる。
小球根は1枚だけ大きな葉っぱを出すが、花は咲かせず球根だけが大きくなる。
富山からの患者さんにこんな話をしたら、完璧なチューリップ栽培法だと言う。
そうだろう、球根の数はどんどん増えてゆく。
立派な大球根はホームセンターに並んでいるのと何ら遜色はない。
でも実は色分けが大変で、花が咲いているときに、この花何の色と区別をつけて置く。
花にもいろいろあり、色が違うだけでなく、咲き方や形が何となく品があるやつもいるし、まったくアカンやつもいる。
一番後に咲いて、一番早く散るやつもいる。
そんな訳で、育ての親ながらえこひいきがはなはだしい。
花の時期は毎朝、根元の葉っぱを2枚は残し、花束にしてクリニックに持ってゆく。
患者さんが、きれいねとコメントしたりすると、すかさず『私が育てました』と自慢をする。
花束を持ってエレベーターの中で看護師さんや職員さんに会ったとき、『これ君に!』と言いながら渡したとき、なんとリアクションするかを楽しみにしたりしている。
今年の6月、用事があってソルトレークに行った。
彼の地に高校の同級生がいる。
かなりの美人でアメリカ人に拉致され、幸福な家庭を築いている。
お土産を買う暇がなかったので、日本の新聞紙にくるんだ球根を20個ばかりプレゼントした。
とても喜んでくれ、私もとても嬉しかった。
私の選び抜いた球根が彼の地で芽をだし、彼女の庭で花を咲かせてくれれば、こんなロマンチックな話はない。
さて、今年は大問題がある。
春の連休、球根を掘り上げた畝に目を付けた近所の野菜作りセミプロの人がカボチャを植えた。
もうすっかり秋になったのに、畑はまだ一面カボチャの葉っぱで覆われている。
当分、球根は植えれそうにない。
カボチャに早く枯れろと祈るのは、さもしい限りであろう。
そんな訳で来年は無理かもと思い始めている。
今年は500個以上の球根が段ボール箱に眠っている。
クリニックのスタッフや知人のところに、嫁に出そうか、、、
うまく育ててくれるだろうか、少し心配している。
患者さんにあげたりして、『秋に植えると来年の春にはきっときれいなチューリップが咲くよ』と伝えれば、どんな薬より良く効くかも知れない。
ひょっとして、私のカテーテル治療より良く効くかも知れない。
それも少し心配だ。