フラッシュバック | S.H@IGTのブログ

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大阪府泉佐野市にある、ゲートタワーIGTクリニックの院長のブログ

私の部屋に前のクリニックから持ってきたスライドが、中ぐらいの段ボール箱に詰められて、それが5つもある。

大学で研究していたころ、市民病院で仕事をしていたころの研究内容と症例写真がスライドになっている。

こんな症例、あんな症例、もうざっと数えて1万枚以上ある。

全部自分で作ったもので、作るのに合計何千時間もかかったのだろう。

学会で発表したり、講義で使ったり、研究資料にしたり、大活躍し、秘かに私の財産だと思っていた。

 

でも、もう時代はすっかり移り変わり、研究資料はパソコンで保管し、病院のデータはでかいサーバーで保管している。膨大な画像データも捨てられる恐れなんかない。どんな資料もコンピューターから直ぐに引っ張り出せるし、学会発表や講演会のスライドだって、パソコンでたちどころにできる。

 

昔はスライド作りが本職か思うほど苦労したが、ラクチンな時代になったと思う。

そのうち、スライドの語源なんかを説明すると、『そうだったのかー』とか言われてしまいそうだ。

 

だから、もう、貯めに貯めたスライドなんかちっとも役に立たない。

あまつさえ、フィルムにカビが生えたりして、もうすっかり邪魔者になり始めている。

 

後輩の医者のこんな症例、あんな症例と見せて勉強になるかなと思わなくはないが、懐古趣味だと言われたら癪に障る。

それに、プロジェクターなんかどっかに片づけてしまい、家探ししないと出てきそうにない。

おまけに古いCTで撮った写真なんか研究材料にも使えない。

 

そんなわけで、もう捨てるしかない、そう決めた。

ここは博物館じゃないもんね、とか思いながら、

でも、捨てる前に一度目を通しておこう、、、、、 これがいけなかった。

 

疾患別にまとめたスライドホールダーを明るい窓にかざしてみる。 

ほとんどが20年以上前の症例だ。 

あんな症例、こんな症例あったよなー、と思いながら見ていると、スライドには番号が振ってあるのではなく、患者さんの名前が書いてある。

スライドのCT写真とともに患者さんの名前を合わせて見ると、そのころの診療がアリアリと目の前に浮かんでくる。

 

この患者さん、おなか痛がってたよなー、とか、大出血で大変だったよなーとか、治療中に泣いてたよなーとか、もう、いろいろ鮮明に思い出すのだ。

 

もう、20年も30年も経っているのに私の頭の中は、フラッシュバックで収拾がつかない。

 

何十年も一度も思い出さなかった患者さんのことを、昨日診た人のように思い出す不思議

机の横に置いた大きなゴミ箱に、それを投げ入れたら、その患者さんのことを永久に葬り去るような気になる。

 

研究発表に使ったスライドだって、それを見れば、時間のかかった研究作業をあれやこれやと思い出す。

研究結果は役に立たないものもいっぱいあるけど、少しは自慢している結果だってある。

あのゴミ箱に放り込めば、自分の記憶細胞まで引っ剥がして捨てるような気がする。

 

そんな訳でどうしても捨てられないスライドがある。

時間はかかるが、患者さんのスライドも、研究結果のスライドも最小限にして、小さな箱にぎっしりと入れている。

でも、私もいつかそれを有効活用する自信も計画もない。

無駄かなーと思いながら、どうしても捨てられない。

 

それでもいつか捨てる時が来るに違いないから、今風に、『断捨離OK』とでも書いておこうか。

 

でも捨て損ねて、私が死んだあと、息子なんかにそれを見られて、『未練たらしいオヤジだったよな』とかと思われるとコケンに拘るので、箱の表に、『すべて捨ててよし』、とでも書いておこうか。