ブログを始めたものの、何を書いたら良いのかさっぱりわからない。
それでは以前、私が連載していたエッセイでも。
連載していたのは、クリニック周辺の地域で発行されていたフリーペーパーである。
しかしこのフリーペーパー、我がエッセイが連載8回を迎えようとしたとき・・・廃刊。
発行されることなく埋もれていたエッセイに、日の目をみせてやろうと思う。
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本日休診
木曜日、私のクリニックのあるビルを出て駅を過ぎ、右に曲がって歩道橋をそのまま100メートルも歩けば、昔は海だったとはとても思えない芝生と松の立派な公園に出る。
ベンチと花壇が続くしゃれたレンガの長い真っ直ぐな道を行けば、その先に木でできた大きな太鼓橋がある。太鼓橋を上るに連れてその先にだんだんと広い海が見え出し、関西空港が横に長く浮かんでいるのが見える。そのもっと向こうには淡路島が見え、明石大橋なんかも見えたりする。
太鼓橋を下るのに目の前の景色に見とれていると、足を滑らしたりして危ないので、前を向いたり下を向いたり目玉を動かすのに忙しい。
その先には入り江に似せた海水の池があり、其の回りに大きな岩が沢山並べてあって、寒い日なんぞは岩の隙間に入り込んで日向ぼっこを決め込むと、とっても気持ちよくてお尻の痛いのなんか忘れてしまいそうだ。
其の右手の芝生は坂になっていて、お天気の日にシートを引いて横になれば、ちょうどいい角度でうかうかすると寝込んでしまい真っ赤に日焼けしそうだ。
松の木にもたれて座り、浅田次郎の文庫本なんか読み、突然に涙がこぼれ出しても、だーれも見ていないので安心だ。
スロープを上がりきると、テトラポットに囲まれた海辺のテラスに出る。結構オシャレな木のベンチなどが置いてあり、大股広げてベンチの真ん中に腰掛けてコンビニで買ってきた弁当とお茶を取り出し、なるべくゆっくり、ゆっくり食べる。
目の前の空港からはジェット旅客機が重たそうに飛び立って行き、すぐ横の天空橋をバスや電車が忙しく渡ってゆく。空港島の前を淡路島からのフェリーが、大げさに波を蹴立てて行く。
私はナーンにも考えずにそんな景色を眺めてもう30分以上もそこにいる。足元にはスズメが何羽かやってきて、おにぎりのかけらなんか投げてやると、やたら嬉しがって嘴であっちこっちに蹴散らかしている。
そんな私の前に、箒と塵取りを持った公園の掃除係のおじさんが、ふと、立ち止まった。
『ええ天気やなあ・・・(・しばし沈黙・)、・・にいちゃんなあ、辛いこともあるかも知れへんけど、まあ頑張りや、人生捨てたもんやないでー。』
『うん、せやなー、頑張らなあかんなあ』
私にはそう答えるほかはない。
もうそろそろ、じいちゃんと言われても仕方がない歳になろうとしている私には、まだなお捨てたくても捨てるわけには行かない人生がある。
私は背中に陽を浴びながら、弁当ガラのゴミ袋を振りながら、花壇のような植え込みの散歩道を通って、ゆっくり、ゆっくりクリニックに帰る。
