真ん中っ子日和 -7ページ目

真ん中っ子日和

いい加減。マイペース。一人楽すぎてワロタ。だけどほんとはさびしいんだ☆…なんてこと死んでも言えない中間子。
今度文芸社さんから自費出版させていただくことになりました。
自費出版のあれやそれもちょいちょい更新していくよ!

どうせ散るなら潔く
枯れゆく前に果てましょう。
誰より大きく艶やかに
咲いたそのとき消えましょう。




「短く太くってこと?」
こくり。
「長く太くじゃなくて?」
こくり。
「長く細くても駄目なの?」
こくり。
ふむ。とレンは考え込む。そういうもんだろうか。
「なんで短いほうがいいの?」
「……るの……」
小さな声が掠れた。
「生きるの、とても、辛い、から」
途切れ途切れに紡がれる言葉は痛々しかった。
「苦しいの、もう、嫌だ、から。でも、何も、無いまま、死ぬのも、嫌で……」
それでは何のために生まれてきたのかわからないから。
「何か、やってから、死にたい……」
何か一つで、一つでいいから。
生きた証を遺したい。
その気持ちはわかる気がしたから、レンは「そっか」とだけ言った。
目を伏せて、夢の中でまで怯えたように小さくなって。
少女はレンを見ようともしない。
大丈夫なのに、と思う。
責めないから。決して傷つけないから。怖がらないでいいのに。
言葉を口にする代わりに、レンはただ目の前の光景を見つめた。
青く透き通って、遥か遠くまで広がっている海。
水平線を赤く染めて、海に溶けていこうとする真っ赤な太陽。
少女の思い出の中の哀しいくらい綺麗な場所。
夕日は大きく、温かい気がするからレンは好きだ。
「大きいねぇ……海も……太陽も……」
そう呟くレンの横顔を少女はこっそり見つめる。
綺麗な綺麗な人。
「僕もこんな風になりたかったなぁ……」
「……わた、し、は」
言葉が泪みたいに零れ落ちた。
「あなた、みたいに、なりたかった……」





美しくなりたかった。
強い自分でありたかった。
優しい人になりたかった。
大輪の赤い薔薇のように
咲き誇る華でありたかった。





「君に薔薇は似合わないね」
静かな声が胸に刺さって、思わず下を向いた。
そんなこと知っているのに。知っていたはずなのに。
自分はまだ夢が見たいと思っているのだろうか。
それ以上何も言わないで。
聞きたくない。お願いだから。
そう思ったとき、頬に何かが触れた。
思わず目を開けると、優しい微笑を浮かべた青年が自分に花を差し出していた。
「ほら、スミレのほうが似合う」
青年の瞳と同じ色をした、小さな花。
頬に触れていたのはスミレの花だった。
「艶やかな薔薇は人を酔わせるけれど、可憐な花は人を癒すって知ってるかい?」
甘い声は何処までも優しい。
君の。
声はとても優しいから。
信じてしまいそうになる。
信じたいと思ってしまう。
こんな醜い自分でも、何かできることがあるのだと。
「僕は薔薇よりスミレのほうが好きだよ」




少女の顔が初めて綻んだ。
「やっぱり、私、は……」
あなたみたいになりたかった。




一人になって、レンは小さく呟いた。
「僕も君のようになりたかったよ……」
華ではなく花でありたい。
いつも人のすぐ傍で、咲いている、花で。

「    レ     ン    」




声が聞こえた気がした。
名前を呼ばれた気がした。
あの声をレンは知っている。
そうあれは 白い花と同じ名前の あの子の。




レンは、振り返らなかった。
振り返ることができなかった。
振り返らなくても分かってしまった。
此処に来たのは彼女の言霊だけだということ。
彼女はもうこの星の何処にもいないということを。




「どうした?レン」
急に立ち止まったレンを友人の死神が怪訝そうに見つめた。
「なんでもない」
そう言って再び歩きだすものの、またすぐ立ち止まる。
「レン?」
「君なら、知ってるかなぁ」
「?何を?」
「人は死んだら何処へ行くのかってこと」
「ああ」
死神はなんだそんなことかという顔をした。
「宇宙に。空に昇るんだよ。そうして星のひとつになるんだ」
死神は空を見上げた。
「人だけじゃない。
命あるものは全て星になるんだ。
星になって、星としての命を全うして
今度は何処かの星の上に生まれかわる」
「僕たちは?」
死神は首をすくめた。
「さぁ?だって僕たちが死ぬところを見たやつはいないんだもの」
それから笑って、「そんなこと気にするなんて人間みたいだよ」と付け足した。




人は死んで星になる。
星は死んで人になる。




レンは空を見上げた。




星は数え切れないくらいあって、だからきっとあの子も淋しくないだろう。
あの子はどんな星に生まれ変わったのだろうか。
あの子を育んだ星と同じように、水と緑と命に溢れたものであるといい。




知らず知らずのうちに小さな吐息が洩れた。




夜空にはたくさんの星が瞬いていて。
あの中の星の一つになって、光り輝いていられるというなら、死ぬのも悪くないかもしれない。




人になりたいと初めて思った。
そうしていつか星になれたら。

降り積もる雪は音も無く
辺りをそっと包み込む。
そこかしこに眠る痛みも悲しみも
何もかも隠すように白く染め上げる。
春になれば消えてしまうのに。




レンは雪が嫌いだ。



「どうして?こんなに綺麗なのに」
少女は頬を紅潮させながらレンを見る。
「雪の何が嫌なの?」
そんなこと考えたことも無かった。
少し迷って、「すぐ消えるところ」とだけ答える。
「潔くていいじゃんか」
「でも、嫌なんだ」




儚い幻は美しくて。
いつまでも此処にいたいと思う。
けれど終わる。
すぐに消えてしまう。
人の想いなど関係なしに、溶ける。




「でも雪ってそういうもんだし。雪のせいじゃないじゃん」
率直な意見に、レンは苦笑いを浮かべた。
「そうなんだけどね……どうしても、さ。どうせ幻に過ぎないのなら、初めから見せなければいいのにって思っちゃうんだ」
少女はきょとんとした目でレンを見つめた。
そして言った。
「ねえ、それって本当に雪のことなの?」




雪は嫌いだ。
自分が見せる夢も、どうせ一時の優しい幻に過ぎないのだと、思い知らされる気がするから。




言葉を失ったレンの背中をポンと叩いて、少女は雪の中に寝転んだ。
「…あんたが思ってることなんて、あたしはわかんないけどさ」
灰色の空から雪が降る。
白い儚い花びらが二人の上にそっと降り積もる。
少女はレンを見ないまま呟いた。
「少なくともあたしは、この景色が見れてよかったと、そう思うよ……」




雪と夢は似ている。
春になれば、朝が来れば、儚く消えてしまう幻。
それでも誰かの心に残ることはできるのだろうか。
決して消えない、万年雪のように。