真ん中っ子日和 -5ページ目

真ん中っ子日和

いい加減。マイペース。一人楽すぎてワロタ。だけどほんとはさびしいんだ☆…なんてこと死んでも言えない中間子。
今度文芸社さんから自費出版させていただくことになりました。
自費出版のあれやそれもちょいちょい更新していくよ!

傷ついて苦しくて壊れそうな夜に
月を見上げて思うこと。
私は何。
何のために生まれてきたの。
月はいつだって答えてはくれなくて
けれど優しく輝いていて
眠れない夜が、また一つ増えてゆく。





「願い事は何?」
優しくて甘い声が響く。
「欲しいものは何?」
月に似た雰囲気を身に纏う、美しい青年。
「僕が叶えてあげる。君が望むもの全てあげる」
彼なら答えてくれるだろうか。
「答えを、ちょうだい」
いっぱい考えて、探して、でもどうしてもわからなくて。
「私はどうして生まれてきたの?」
どうして私でなくてはいけなかったのか、と。




いつだって不安だった。
自分が生まれてきたのは間違いではなかったかと思っていた。
だってみんな何かしらすごいところを持っていて、それはつまり生まれてきたことが正解だったということで、それなのに自分には何も無くて。
誰かに自分の存在をいつか否定されるのではないかと思うと怖かった。
だから無理をした。
そして自分を見失った。




「誰にも生まれてくる意味とか、理由とか、そんなのはないんじゃないかな」
ややあって彼はポツリと呟いた。
「だからきっと人は生きるんだよ。
自分はこのために生まれてきたんだって
みんなそう言いたいんだ。
何かを手に入れたくて足掻いて、苦しんで。
そうやって生きていくんだろう」
「もし何も手に入らなかったら?」
「それでも」
青年は真っ直ぐに私を見つめた。
「頑張ったことは嘘にならないから。頑張った自分をきっと好きになれるよ」
紫の瞳がふっと和らいだ。
「自分を好きになるということは素敵なことで。
それは生まれてきてよかったって思えることで。
生まれてきてよかったって思うことは、生まれてきた理由にならないかなぁ?」
生まれてきた理由があるとしたら、自分がそう望んだから。
泣きたいような気持ちになって、私は笑った。
「なんか、丸め込まれたような気分」
「そう?」
「うん」
でも、と私はつけたした。
「ちっとも嫌じゃないわ。…t…不思議ね」
そうして二人で笑った。
『生まれてきてよかったと思うために生まれてきた』
なんて自分勝手な理由だろう。
なんて愛しい理由なんだろう。




私の中の私はまだ曖昧なままで。
だから多分私はこれからも人の言葉に簡単に左右されたりするんだろう。
それでもきっと私は歩いていけると思う。
自分勝手でもいいんだよと、彼に言われた気がしたから。
彼に、会えたから。




少女は目を覚ました。
しばらくボーっとして、不意に頬をぺちぺちと叩いた。
傍から見たら気合を入れているようにも見える。
「うん。大丈夫」
小さく呟いて伸びをする。その瞳には確かな光が宿っていた。
少女は沈みかけた月を優しく見つめ、立ち上がった。

いつか来る日の夢を見よう。





「『絶対に帰ってくる』ってあの人言ったもの」
花のように少女は笑う。
「『帰ったら結婚しよう』って約束したのよ」
右手の薬指におもちゃの指輪を嵌めて。
「だから待ってるの」
愛しそうな目で、その指を見つめて。
「ずっとずっと、待ってるのよ」
どれほど時が流れても待ち続ける。
そう約束したから。




夢の中で人は記憶に最も強く残っている姿を取る。
大人に成長した今も、彼女の心は少女のままだ。
自ら時を止めてしまったことに彼女は気づかない。
ただ ただ 指輪を見つめて嬉しげに笑う。
「だってあの人約束破ったことないもの。だから絶対に帰ってくるわ。そうでしょ?」
レンの胸に強い痛みが走る。
ごまかすように笑って、レンは「そうだね」とだけ言った。
「でもね」と少女は言う。
「待つのもちょっとだけ、疲れたの」
そう呟いた顔だけが妙に大人びていて、年相応に見えた。
「我慢してても、やっぱり会いたいの……」
「うん」
「だから、だからね」
「うん」
「『いつか来る日』の夢を見せて?」
少女が上目遣いでレンを見る。
「いいよ」と返事をしたら、その顔がぱぁっと明るくなった。
「ありがとうっ」
レンはただ 静かに 笑った。




ウェディングベルの音が響く。
たくさんの花が澄んだ青空に舞い上がる。
別れたときよりも幾分か成長した恋人の顔を少女は眩しげに、嬉しげに見つめていた。
祝福の声に包まれて二人は笑う。
その手はしっかりと繋がれていた。




「……これで善かったのかな……」
少女が夢から去った後で、レンは小さく呟く。
「会わないままだったら前に進めたかもしれないのに」
けれど会わせてしまった。
彼女はきっとこれからも彼を待ち続ける。
喪失の痛みから逃れるために時を止めてしまった、幼い心のままで。
「分かっています。それでも俺は、約束を守ってやりたかった」
少年は振り返って淡く笑った。
「これは俺の最期の我儘です。……傷つけてしまうかもって、わかって、いたけど……」

ほんのわずかな、ひと時の夢で構わないから。
もう一度でいいから、貴女に会いたかった。
「どうしても、心を止めることができなかった……」
約束はもう叶えられない。
叶えたかった。これから先もずっと一緒に生きていきたかった。
けれど、もう。
レンは少年から目を逸らした。
その瞳から零れる泪を、見ないように、した。




「そろそろ」
死神の優しい声がする。
少年はレンに深く頭を下げ、死神のほうに向き直った。
死神の手が彼の額に触れる。
一瞬の閃光の後、そこには青く光る魂が浮かんでいた。
天つ風が少年だった魂を天へ運んで行く。
レンはそれを見送って、目を閉じた。





約束をした、『いつか来る日』の夢を君に。
決して来ない、未来の夢を。

還りたい。
還りたい。
でもそれが何処なのかも分からない。




「迷ってしまったの?」




誰?




「君に優しい夢をあげる者」




教えて。
私は何処に還ればいいの?




「天に。そうして君は星になるんだ」




どうすれば行けるの?




「じきに風が吹く。君は天つ風に乗って行くんだ。天に……」




天に。




天つ風が吹いて、幼い心を連れてゆく。
「ありがとう」の言葉だけ残して。




レンは小さく呟いた。
「天へ、お還り」
現世のことを忘れて。
天つ風に乗って。
「そうしていつか戻っておいで」
星としての命を全うしたら、もう一度還っておいで。
青と緑に包まれた、この美しい星に。
「その日までどうか君を、安らかな夢が包んでいますように…」





天つ風に乗って戻っておいで。
君を待つ僕の元へ。