月を見上げて思うこと。
私は何。
何のために生まれてきたの。
月はいつだって答えてはくれなくて
けれど優しく輝いていて
眠れない夜が、また一つ増えてゆく。
「願い事は何?」
優しくて甘い声が響く。
「欲しいものは何?」
月に似た雰囲気を身に纏う、美しい青年。
「僕が叶えてあげる。君が望むもの全てあげる」
彼なら答えてくれるだろうか。
「答えを、ちょうだい」
いっぱい考えて、探して、でもどうしてもわからなくて。
「私はどうして生まれてきたの?」
どうして私でなくてはいけなかったのか、と。
いつだって不安だった。
自分が生まれてきたのは間違いではなかったかと思っていた。
だってみんな何かしらすごいところを持っていて、それはつまり生まれてきたことが正解だったということで、それなのに自分には何も無くて。
誰かに自分の存在をいつか否定されるのではないかと思うと怖かった。
だから無理をした。
そして自分を見失った。
「誰にも生まれてくる意味とか、理由とか、そんなのはないんじゃないかな」
ややあって彼はポツリと呟いた。
「だからきっと人は生きるんだよ。
自分はこのために生まれてきたんだって
みんなそう言いたいんだ。
何かを手に入れたくて足掻いて、苦しんで。
そうやって生きていくんだろう」
「もし何も手に入らなかったら?」
「それでも」
青年は真っ直ぐに私を見つめた。
「頑張ったことは嘘にならないから。頑張った自分をきっと好きになれるよ」
紫の瞳がふっと和らいだ。
「自分を好きになるということは素敵なことで。
それは生まれてきてよかったって思えることで。
生まれてきてよかったって思うことは、生まれてきた理由にならないかなぁ?」
生まれてきた理由があるとしたら、自分がそう望んだから。
泣きたいような気持ちになって、私は笑った。
「なんか、丸め込まれたような気分」
「そう?」
「うん」
でも、と私はつけたした。
「ちっとも嫌じゃないわ。…t…不思議ね」
そうして二人で笑った。
『生まれてきてよかったと思うために生まれてきた』
なんて自分勝手な理由だろう。
なんて愛しい理由なんだろう。
私の中の私はまだ曖昧なままで。
だから多分私はこれからも人の言葉に簡単に左右されたりするんだろう。
それでもきっと私は歩いていけると思う。
自分勝手でもいいんだよと、彼に言われた気がしたから。
彼に、会えたから。
少女は目を覚ました。
しばらくボーっとして、不意に頬をぺちぺちと叩いた。
傍から見たら気合を入れているようにも見える。
「うん。大丈夫」
小さく呟いて伸びをする。その瞳には確かな光が宿っていた。
少女は沈みかけた月を優しく見つめ、立ち上がった。