真ん中っ子日和 -4ページ目

真ん中っ子日和

いい加減。マイペース。一人楽すぎてワロタ。だけどほんとはさびしいんだ☆…なんてこと死んでも言えない中間子。
今度文芸社さんから自費出版させていただくことになりました。
自費出版のあれやそれもちょいちょい更新していくよ!

「ねぇレン。レンの仲間ってさ、どんな種族がいるの?」
唐突な質問にレンは驚いたような顔をした。
「あー……いっぱいいるけど、君たちがなんて呼んでるのかは知らないなぁ」
「そうなの?」
「君たちは僕らが何を食べてるのかで区別しているだけだから」
そういえばレンが何を食べているのかは知らない。
「レンンは何を食べてるの?」
「食べるっていうか……人の感情が発するエネルギーをちょっとだけ分けてもらうんだ。別にどんな感情でもいいんだけどね」
「だから願いをかなえるの?」
喜びというエネルギーを摂取するために。
少しだけ、間があった。
「初めは、そうだった。エネルギーが得られればそれでよかった。たまたま喜びという感情が発するエネルギーが一番美味しかっただけ……」
「今は?」
レンは少し笑った。
「ねぇ華夜。僕は人間になりたいんだ」
「え?」
「人間は僕たちが知らない感情をいっぱい知ってて。
汚いとこもあるけど、優しくて愛しいとこもたくさんあって。
僕は人間が好きなんだ。幸せになってほしい……」
だから願いを叶えるのだとレンは言った。
不意に胸に痛みが走る。発作とは違う痛み。
華夜は目を伏せた。
「いいなぁ、レンは……」
言葉が、つい、零れた。
「私もそんな風に、誰かを幸せにするために生きたかった……」
「今からでも遅くないだろ?」
レンの声は優しい。けれど。
「無理だよ」
「華夜?」
無理だ、そんなの。
母の顔が頭を過ぎった。
「幸せにしたいと願うなら、私は生まれてくるべきじゃなかったの」
お母さん。お母さん。お母さん。
「お母さん、ね。私がいなかったらきっと再婚してた。幸せになってた。でも私は生まれて。しかもこんな身体で」
役立たずな心臓。小さな身体を満足に動かすことさえできはしない。
「私の入院費を稼ぐために毎日毎日いっぱい働いて、自分のためになんて全然使えない。全部全部、私がいたから……」
声が震えそうになる。
華夜は父の顔など知らない。生まれる前亡くなったのだと聞いている。
自分はもうすぐ死ぬのだろう。そして母はまた悲しい思いをするのだろう。
「私はいつだって、悲しませることしかできなかった」
夢になってしまいたかった。
忘れられるのはとても辛いけれど、悲しませるのはもう嫌だったから。
「華夜は優しいね」
レンがぽつりと言った。
「自分よりお母さんの幸せを考えてる。お母さんはきっとそんな華夜の優しさをわかってるよ。君が気づかないだけで、君の優しさに救われてきたんだよ」
そんなのあるわけない。
「買いかぶりだよ」
「そんなことないって」
「違うよ」
優しくなんか、ないよ。
「僕が言うことが信じられない?」
レンはふわりと微笑んだ。華夜は言葉に詰まる。
「ずるいよ、レン。そんな言い方」
「はは」
レンは目元を和ませて華夜の頭を撫でた。
「不安なら直接聞いてみなよ。……ところで、なんでいきなり僕の仲間のことが気になったの?」
「ん、別に。なんとなく」





死ぬのは別に怖くない。
ただ、生まれ変わることが怖い。
人間にはもうなりたくない。だって人間は色んなものを傷つけず生きていけないから。
夢魔になりたい。
もし夢魔になれなくても、それに近しいものになりたい。
そう言ったらきっとレンはまた哀しい顔をするだろうから、どうしても言えなかったけれど。
レンは不思議そうな顔で「そう」とだけ言った。

「手術?」
医者が頷く。
「君のお母さんにお話したら、本人の意思を尊重したいと言われたんだ」
母は華夜のほうを見ない。ただ悲痛な表情を浮かべて下を向いている。
そんな顔しないでほしいのに。
「このままだと君は半年生きられるかどうかもわからないんだよ?」
沈黙に耐え切れなくなったのだろう。医者が再び口を開いた。
「でも手術が成功したら健康な体になれるかもしれないんだ」
「成功する確率は、どれくらいなんですか」
医者は一瞬躊躇って答えを口にした。
「30%……」




ああ。
死刑宣告だ。




「華夜ちゃん……」
「少し」
華夜は小さな声で医者の言葉を遮った。
「時間を、ください……一人にして……」





二人が出て行き、華夜は一人になった。
涙は出なかった。
目を閉じると母の顔が浮かんだ。今にも泣き出しそうな悲痛な表情。
どうして母はあんな顔をしたのだろう。
まだ私はこうして生きているのに。
そしてたとえ死んだとしても、どうか悲しまないでほしい。
短い命だったと哀れまないでほしい。
だって私は幸せだったのだから。
とてもとても幸せだったのだから。
死ぬのは嫌だ。
こんな自分でも愛してくれる人たちがいるから。
悲しませたくない。
だから消えてしまいたい。
大切な人たちの記憶から、自分という存在がなくなってしまえばいい。
初めから全てが夢の中の存在であったかのように。






「華夜」
目を開けなくても誰かわかる。
此処には自分と彼しかいないから。
「寝てるの?」
「うん、そう」
「嘘つき」
くすくすと小さな笑いが混じった。
「夢の中で寝られるわけないじゃないか」
華夜は観念して目を開けた。
「レン」
「うん?」
「わかってるなら聞かないでよ」
「『お早う』っていうのもなんだか可笑しいだろう?」
紫水晶の色をした瞳が穏やかに細められる。
その瞳も、長く真っ直ぐな銀色の髪も、現実ではありえないものだ。
夢だから。
一時の儚い幻だから。
だからこんなにも美しく、惹かれるのだろうか。
こうなりたいと、憧れてしまうのだろうか。
「華夜?」
どうかしたのと目で問うレンに、笑ってなんでも無いと答える。
レンは何故か哀しそうな顔をした。
「なんでもないって顔してないよ、華夜…」
大きな手が華夜の頬に触れる。その手はひやりと冷たかった。
「また僕になりたいだなんて思っていたの?」
「うん」
綺麗な綺麗なレン。
彼に嘘は通用しない。
レンは複雑そうな顔をした。
「君の願いは今も変わらないまま?」
毎日レンは同じ言葉を繰り返す。
それが小さな祈りを込めたものだと知っている。
けれど。
「うん」
知っていても、分かっていても、華夜の答えが変わることはない。
「そう……」
静かな声に責めるような響きは無かった。
ただ切なさがにじんでいただけで。





レンがこうして夢に出てくるようになったのは一ヶ月ほど前からだ。
毎晩のように華夜の夢に現れて、とりとめのない会話をする。
上も下も光も闇も、色さえないあの世界が華夜は好きだった。居るだけで心が落ち着いた。
もしかしたらそれはレンの纏う雰囲気のせいであるのかもしれない。
レンはきっとどんな人でも見捨てたりしないだろう。そう何故か確信できた。
空虚な華夜の中でただ一つ、星のように輝く優しい夢人。
彼とともにある空気はいつも哀しいほど綺麗で優しいけれど、少しだけ淋しい。





いつものようにレンと過ごして、いつものように目が覚めた。
白い天井をぼんやりと眺めながら、華夜は今日も思う。
自分にはあとどれだけの時間が残されているのだろうかと。