実戦を検討する囲碁ブログ

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囲碁の序盤を主に研究しています。 東洋囲碁で8段で打っています。

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黒:時越  白:朴廷桓

中国甲級リーグの主将戦。
確か時越は中国ランキング1位で、朴廷桓も韓国ランキング1位だったと思うから、
世界1位の決定戦でもおかしくない組み合わせだ。



【第1譜】

白10、12はスモール中国流に対する打ち方としては斬新だと思う。
黒11と守った構えが堅いため、白もそれに合わせて堅く丁寧に打っても大勢に遅れる心配はないと判断しているのだろうか。
また、白は自身を強化することで黒9の目一杯の詰めを無効化しようという意図もあるのだと思われる。



【第2譜】

黒17、19はちょっとつまらない気がする。
手堅く隅の実利を確保しているが、上辺の白に対する迫力には欠けている。

白22は予想以上の踏み込みだ。
私は白22では26とヒラくものかなと思っていたが、黒にAとスソを払われるのを嫌ったのだろうか。
白26までとなっては白十分の形で、私は白良しのワカレだと思う。



【第3譜】


黒は27の三々から実利と根拠を得にいったが、黒45までは「まあまあの形」といった感じ。
特に悪いほどのものでもないが、でかしたという印象でもない。



【第4譜】

白46からの荒らしっぷりは見事というしかない。
右辺の白が安定を失うという代償はあったものの、白58まで黒地をガラガラにしてしまった。



【第5譜】

ただ、白60には何か代案はなかったものかと思う。
俗に黒61、63と出切られ、結果的に黒101まで随分立派な黒の壁が出来上がったからだ。



【第6譜】

しかし白にも102の寄り付きから124までの稼ぎ返しがあり、白がやられたとは一概にいえないのかもしれないが……どうなのだろう。



【第7譜】

終的にはコミ7目半というのが黒の負担として大きかったのか、200手で白の中押し勝ちとなった。

まとめると、やはり白の序盤から58手までの打ち方が見応えがあって、印象的だった。

(おわり)
第16回農心辛ラーメン杯世界囲碁最強戦の第8戦、河野臨九段 vs 王檄九段の碁の感想を書いてみようと思う。

黒  王檄九段(中国)
白  河野臨九段(日本)


黒5の高中国流から白6と外ガカリし、黒7、白8という形は初めて見る。

黒11のカカリには、白は13と受けるのが普通だと思うが、
実戦は手を抜いて左上を白12とコスミツケ。

この手抜きが波乱の始まりだった。
白は左下の定石の最後でまたも手抜きして、白24と左上を連打する。

私は、結果的にこの打ち方が白の形勢を悪くしたと思う。
(他にどういう打ち方があったかは、最後に考えてみる。)

当然ながら
黒は25と動き出すことになり、これが厳しそうだ。
黒27のスベリに白28のツケは目一杯の攻めだが、黒29の反発が来た。




白30、32の分断、黒33のケイマは必然の手順だろう。

黒は45まで白三子を取り込んで大いに得をしたけれど、白も44、46と大きく黒二子を取ってそれなりに稼いだか、と思ったのが…。

黒47が飛んできた。
「白の腹中の黒二子は死んでいませんよ」と言っているようで、相当にインパクトがある。





白は許すまじと48、50だが、それに対して黒は51(!)と左辺を打つという悠然な態度。
いかにも強そうな感じのする、不敵な打ち方だ。
黒53、55と
強固に構えて、「この黒は死にませんよ」と宣言しているようだ。

一方白には54に石が来たことで、60とコウにする手段が生じた。
黒地の中で手になったのだからお蔵に火がついたようなもので、白も負けていななさそうだと感じたのだが…。





黒61からコウ争いの始まりである。
いい勝負になっているかと思っていたら、ここから白が__まるで自身の無理が露呈するかのように__ボロボロと崩れていく。

白100のコウ取りに、黒101から105と打ったのが強烈。
黒は逃げ回っているようで、ここにきて攻守逆転になっている。
今度は逆に、黒が左下からの白の一団を攻め出す。







白106はせめてもの抵抗という感じだが、黒107から113と真っ二つに分断されてしまった。

…あっという間のことで呑み込むのが難しいが、こうなっては勝負あったという形になっている。

まず、黒は109と頭を出しており、容易には捕まらない。
一方白は、左下が黒Aとされると死んでしまう形で、そのうえ中央の白には黒△という強烈なキリが入っている。
しかも、下辺のコウは
実は白Bとしてようやっと本コウになる……つまり、コウとはいっても一手ヨセコウであるので、解消するのにはまだ2手もかかる。

状況的に、本局の決着はここでついているようだ。




始めに戻って、白は24(本図のA)では、たとえば白1、3から9というような打ち方の方が良かったのではないだろうか。
これなら足早だし、下辺の白の形もまずまずしっかりしている。

序盤に白が左上にこだわったことが、苦しい碁にした原因ではないかと思う。


河野九段は今年名人戦と碁聖戦で挑戦者になるなど好調で、高い戦闘力と正確な
ヨセを持ち味としているので、世界トップクラスにも1、2発入るかと期待していたが、惜しくも敗退となった。

(おわり)
【置き碁】 黒の定石選択とその後の打ち方 その1 」 の続き。



【 第3譜 】
ここで黒22としたのが逸機だった。
白23の守りを許し白を安心させては、黒は半手から一手の損をしていると考える。




【 参考図4 】

黒1が左上の白を攻める急所で、急がれる手だった。

その理由は、黒△のサガリが「隅の実利と上辺の白の根拠をうかがう」ことを目的にした手(
石田芳夫 著 「基本定石辞典」より)だからだ。

もし上辺の白を攻めるつもりがないのなら、黒△には実利の得という面しか残らない。

いくらかの実利のために、黒は右下の両ガカリを許してしまった理屈になる。

このことを下の図でもう少し説明してみる。



【 参考図5 】

実戦の定石の類型として、白1から黒6までの定石がある。
この定石は実戦の形と似ているが、白5と
隅をハネられていて、黒が実利で甘い点が違いとしてある。

しかし、当然のことであるが、ただ実利が甘くなっただけ、というのではない。
本図の定石と実戦の定石とでは、黒石の数が一手違う。


白9のカカリに、仮に実戦と同じように黒10としたとしても、実戦と差があるのが分かる。

まず第一に右下が両ガカリされていないこと。
第二に実戦と同様に白11と構えると、黒12などとする手があること。

それに加えて、黒は10とは打たない。
黒Aとハサむのが良さそうで、それで上辺は黒の有利な場となる。



【 参考図6 】

白は右下のカカリではなく、上辺を白1と守るべきだと思われる。

この場面でも黒2は急ぐ必然性がなく、他の大場を打つところだ。
だが仮に黒2と打ったとしても、白3のカカリには実戦と違って黒4とハサむことができる。

黒4とハサむ手と左上黒Aとサガる手、そのどちらが大きいかということだが、実戦のように左上の白を攻めない展開となるならば、私は黒4の方がはっきり大きいと思う。



【 参考図7 】
最後に、
黒Aでは黒1とカケツぐ方が、置き碁では良いと思う。
実利ではAのサガリに劣るが、Bの断点を守るために一手かける必要がないので足が早い。

私は置き碁では、黒でも白でも序盤に鈍足な打ち方をするのは良くないと考える。
というのも、足の遅い打ち方というのは、いったん力を溜めておくことで、後から相手の弱点を突いて成果を上げ、足が遅い分の帳尻を合わせるという打ち方だが
置き碁ではそれが難しくなると思われるからだ。 

黒にしてみれば、強いうわ手にうまい具合追及して、遅れた分を取り戻せる可能性はゼロに近いし、
白にしてみれば、もともと置石という展開力の差がある状態で、のん気に足の遅い打ち方をしていたら展開力の差が目に見えて具体化してしまって、はっきり打ちづらい状況になってしまう。

だから
基本置き碁では、白も黒も先を争って展開力のある打ち方をしないといけないと思う。



話が逸れてしまったが、盤に話を戻すと、黒1のカケツギには白2、4と構える相場だと思う。

ここで黒5が展開力のある、いい手ではないだろうか。
この後白が右辺に展開してくれば、黒は左辺に展開し、
白が左辺なら、黒は右辺に展開する。

つまり黒5は、右辺と左辺を見合いにしている。
黒が展開するのが右辺になろうが左辺になろうが、黒模様の規模で白の勢力を圧倒することができ、分かりやすい碁になる。

その後白が黒模様に入ってくるはずだから、黒はその白を攻めればいい。
そこからの戦いは、自分に有利な模様の中で行われるのだから、黒としては最も有利な戦いとなるわけだ。

「うわ手と正面から腕力勝負をするのは恐い」 という人でも、自分の絶対的に有利な場所で、攻める側に徹することができるというのであれば、不安なく戦えるのではないだろうか。


(おわり)

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