それではここでブカナン氏の論文から離れ、実際にどのような改訂が行われたかを、やや詳細に見ていきましょう。5月14日に投稿した「(5)コーポレートガバナンス・コード項目一覧」を参考に、基本原則ごとに見ていきます。なお、補充原則の番号の後にある( )内は私がメモとして付けたもので、コードの原文にはありません。

 

最初に、繰り返しコメントされるキーワードなどに基づいて、改訂のポイントを以下に列挙します。

 

・政策保有株式

・サステナビリティ(ジェンダーや国際性の多様化を含む)

・独立社外取締役

・支配株主への制約(少数株主の保護)

・資本コスト

・ポートフォリオ

 

それぞれ、既存の規範がより詳細に、より厳格になり、また新たな規範が加わりました(詳しくは後述の原則ごとのコメントをご覧ください)。前回投稿で指摘した「強制的な性格を増し、機関投資家を満足させる性格を強めている」という点は間違いないように思います。

 

以下、改訂内容の紹介に入ります。

 

まず、すべての基本原則に関わる点として、ブカナン氏の論文にもあった通り、2021年の改訂は、東証の市場区分変更に連動して行われました。この改訂で、コードの対象となる市場を次のように定めました。スタンダード市場とプライム市場の会社は基本原則・原則・補充原則、グロース市場の会社は基本原則のみ。また改訂された文言の中には、特にプライム市場の企業に対する求めであると限定しているものがあります。

 

基本原則1 株主の権利・平等性の確保

ここでは原則1-4「政策保有株式」が問題となっています。「上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示」することを求めていますが、2018年改訂で下線部が追加され、その意図(「縮減」)がより明確になりました。また、政策保有株式の保有に伴う便益やリスクが「資本コストに見合っているか」の検証と開示を求めています。同年の改訂にはそのほか、補充原則1-4①(政策保有株式売却制限の禁止)、1-4②(政策保有株主との取引の制限)が追加され、政策保有株主という商取引等に基づく安定株主を減らす方向に誘導しています。

 

そのほか補充原則1-2④(議決権の電子行使、英文資料提供)では、2021年改訂でプライム市場の企業に対して電子行使の環境整備を求める文言が追加されました。

 

基本原則2 株主以外のステークホルダーとの適切な協働

基本原則で「株主以外のステークホルダー」を重視するのは一見意外な印象もありますが、前身にあたる「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」(2009年制定)でも5原則の一つになっていた項目でした。またコードが制定された当時は、2015年9月に国連で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されてからESG投資が急速に注目され始めるなど、世界的にも企業の社会的役割が重視される潮流にあったことも影響しているでしょう。

 

基本原則2で最も大きな改訂は2021年のサステナビリティ関連のものです。2-3①(サステナビリティへの対処)で、抽象的な文言を改めて「気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理」と、テーマを具体的に列挙して取締役会に取り組みを促し、その姿勢についても、これまでのリスク管理という視点のみでなく収益機会にもつながるものとして捉えることを求めました。さらに、新たな補充項目2-4①(管理職の多様化と人材育成)を置き、管理職登用に女性・外国人・中途採用者などによる多様性を確保すること、そしてその数値目標と実施状況の開示を求めました。

 

サステナビリティ以外で注目されるのは、2018年の改訂に伴う原則「2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮」の新設です[1]。2-1~2-5と並べると「企業年金」は異質で、なぜ新設されたかがわかりにくいですが、ひとまずは「株主以外のステークホルダー」の一つとしての従業員に関わるものとしてここに置いたと想定できます。この原則の主旨は、企業年金が「アセットオーナー」として資産運用力を高められるように、母体企業が人材配置等に計画的に取り組み、その状況を開示することです。これをくだいて言えば、企業年金がまっとうな資産運用者として証券市場で行動できるように、母体企業は企業年金を人事面等で支援し、さらにその支援状況を投資家に開示することを求めているわけです[2]

 

基本原則3 適切な情報開示と透明性の確保

基本原則3は大きな改訂はありませんでした。

 

基本原則を説明する「考え方」で、非財務情報の開示を求める部分がありますが、2018年の改訂で「会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて説明等を行ういわゆる非財務情報」(下線は追加部分)と具体的に例示しました。

 

補充原則3-1②(英語での情報開示)では、2021年改訂で、プライム市場の企業は必要とされる情報は「英語での開示・提供を行うべきである」としました。

 

2021年改訂では基本原則2で見た通りサステナビリティへの取り組みが求められるようになったため、新たに補充原則4-2②(サステナビリティ等取組み方針と監督)を置き、その取り組み状況や、人的資本や知的財産への投資について開示することを、特にプライム市場の企業に強く求めています。

 

基本原則4  取締役会等の責務

基本原則4は他に比べて最も分量が多く、改訂の範囲も広いなど、コーポレートガバナンス・コードで最も注力されたパートと言えます。

 

基本原則の「考え方」に、「支配株主を有する上場会社には、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の整備」を求める趣旨が追加されました。

 

原則4-1~4-3は「取締役会の役割・責務」を見出しとしています。

補充原則4-1③(CEO等の後継者計画の監督)は、2018年改訂でより強く求める文言に変更されました[3]

 

補充原則4-2①(経営陣報酬のインセンティブ)では、2018年改訂で取締役会が報酬決定に関与する方法をより具体的に求めました[4]

 

補充原則4-2②(サステナビリティ等取組み方針と監督)は新たに2021年改訂で設けられました。サステナビリティに関する基本的な方針の策定とその実行の監督を取締役会に求めました。

 

補充原則4-3②~③(CEOの選任、CEOの解任)は新たに2018年改訂で設けられました。CEOの選解任は、もともと原則4-3で取締役会に求めていたものですが、補充原則として項目を設け、「CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定である」などの文言で、責務としての重要性を強調しました。

 

補充原則4-3④(ガバナンス体制の構築と運用)は、2021年改訂で文言が変更され、グループ全体を対象とすること、内部監査部門を活用して統制を進めることを求めました。

 

原則4-4「監査役及び監査役会の役割・責務」は、2021年改訂で文言が変更され、監査役の選解任が追加されました。

 

原則4-8「独立社外取締役の有効な活用」はコーポレートガバナンス・コードの焦点の一つで、2度にわたって文言が改訂されました。

2015年コードでは「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべき」だが、「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社」は「取組み方針を開示」することを求めていました。

2018年改訂で、上記後段の「3分の1以上・・・が必要と考える上場会社」は「十分な人数の独立社外取締役を選任すべき」とされました。

さらに2021年改訂では、「少なくとも2名以上選任すべき」が、プライム市場上場会社については「少なくとも3分の1以上」に変更されました。後段の「3分の1以上・・・が必要と考える上場会社」という対象が、「過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社」に変更されました。

わかりにくい文言ですが、フォローアップ会議等の検討で、独立社外取締役の人数増加が持続的に検討され続けたことが確認できます。

 

補充原則4-8③(支配株主を有する企業への制約)は2021年改訂で新設されました。支配株主を有する企業に対して、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任するか、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべきとしました。

 

補充原則4-10①(任意の諮問委員会による経営陣の任命と報酬)は2度にわたって文言が改訂されました。この補充原則の趣旨は、独立社外取締役が過半数に達しない上場企業[5]は、経営陣・取締役の指名や報酬決定に関する諮問委員会を、独立社外取締役を主要な構成員として設置し、取締役会はその関与・助言を受けることを求めるものです。2018年改訂では、諮問委員会について具体的に「指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会」と補足しました。2021年改訂では、諮問委員会の関与・助言について「ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め」の文言を追加し、さらにプライム市場の企業については、委員会で独立社外取締役が占める割合を「主要な構成員とする」から「各委員会の構成員の過半数」と改め、委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきとしました。ここにも原則4-8でみた独立社外取締役を重視する方針が確認できます。

 

原則4-11「取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」も2度にわたって改訂されました。この項目は、取締役会について構成員の多様性と適正規模を両立することを求めていますが、2018年改訂で「ジェンダーや国際性の面を含む」の文言が入り、多様性をより具体的に示し、2021年改訂ではさらに「職歴、年齢の面を含む」と追加しました。

また、監査役について2015年コードで「財務・会計に関する適切な知見を有している者」という条件を記しましたが、2018年改訂では「適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者」(下線は修正部分)と変更され、財務会計の専門性とともに実務経験や法務の知識が条件に加わりました。

 

補充原則4-11①(取締役会のバランスと選任方針)では2021年改訂で、経営戦略に照らして取締役会が必要とするスキルを特定したうえで、取締役会全体としてバランスよくスキルを備えることを求めました。また、独立社外取締役の選任にあたっては他社での経営経験を有する者を含めるべきであるとしました。

 

補充原則4-13③(内部監査部門との連携)では2021年改訂で、「取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること」が追記されました。

 

基本原則5 株主との対話

補充原則5-1①(経営陣・取締役による対話が基本)は2021年改訂で、それまで株主対話の対応者の範囲を経営陣、社外取締役を含む取締役としていたのを、新たに監査役も加えました。

 

原則5-2「経営戦略や経営計画の策定・公表」は、2015年コードでは、収益計画や資本政策の方針を示すこと、目標を提示しその実現に向けた経営資源の配分と実行策をわかりやすく説明することを求めました。2018年改訂で、戦略・計画の策定にあたっては「資本コストを的確に把握」すること、そして目標実現のための資源配分に「事業ポートフォリオの見直し」について説明することを求めました。また説明すべき経営資源の配分を「設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む」と明示しました。この年の改訂では、「資本コスト」「ポートフォリオの見直し」が新しいキーワードとして出現したことが注目されます。

 

補充原則5-2①(ポートフォリオ見直しの説明)は、2018年改訂で原則5-2に出現したキーワードが、2021年改訂で新たに別項目として置かれたものです。ここでは、経営戦略等の策定・公表にあたって、取締役会で決定した事業ポートフォリオに関する基本的な方針や見直しの状況について分かりやすく示すことを求めています。

 


[1] 文言は次の通り。「上場会社は、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである」。

[2] 2018年3月に発表されたフォローアップ会議の提言では、1万を超える企業年金のうちスチュワードシップ・コードの受け入れを表明したのはわずか9年金にすぎないことを指摘し、受け入れが広がることを期待すると述べています(スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議「投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」2018年3月26日)。01.pdf

[3] 取締役会が策定と運用に主体的に関わること、育成に十分な時間と資源をかけて行われているか監督すること、など。

[4] 「客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである」

[5] 監査役会設置会社または監査等委員会設置会社についての条文。