前回投稿でコーポレートガバナンス・コードの原則の全体像を資料としてご紹介しました。その表で色分けしたように、2015年の当初のコードは、2018年、2021年と2回改訂されていますが、内容面ではどのように変化したのでしょうか。

 

ジョン・ブカナン「日本のコーポレートガバナンス・コード 2015年~2021年の展開 正当性、そして原則から規範への変遷」[1]は、コードの改訂状況を詳細に分析した論文です。ブカナン氏の分析を一言で言うと、コードが改訂のたびにより強制的な性格を増し、日本市場への投資を促進するために機関投資家を満足させる性格を強めている、しかしそれは各企業のコード対応の形骸化をもたらすだろう、というものです。

 

論文の流れは、各バージョンごとにまず改訂内容を概観し、次に上場企業がどのように対応したかを分析し、さらにどうしてそのようになったかを分析します。そして2回の改訂を通じて、コーポレートガバナンス・コードがどのように性格を変化させたかを次のように断じます。

 

「本コードのこうした3つのバージョンを見比べると、当初の、健全なガバナンスの原則を定義しその実践を奨励しようとしていた動きが、まず2018年には教訓的な姿勢が強まり、2021年には公然とより規範的なスタンスに焦点が移り、プライム市場の付属物のようになってしまった、という印象を受ける」(p.60)

 

「改訂作業は次第に教訓主義および規範主義へと方向転換したように思われる。・・・2021年改訂では、公式にはプリンシプルベースのガイダンスであるものを、プライム市場の上場要件と具体的に関連付けるという予想外の手順を踏みながら、そのプロセスを加速させてきた」(p.80)

 

「2021年改訂以降、本コードは、プリンシプルベースの既存のグッドプラクティスを成文化したものではなくなり、投資家のコミュニティを満足させるために考案されたとおぼしき一連の要求事項が多くなっている。本コードは、長期的な企業価値向上を促すことを期待して、企業同士が互いに健全なコーポレートガバナンスを促進することだけに焦点を当てるのではなく、日本市場への投資を促進するためのメカニズムとして再定義されたようである。これを実現するために、機関投資家が重視するコーポレートガバナンスの2つの側面、すなわち株主第一主義と取締役会の独立性を特に強調している。これらの側面は、多くの経営陣の暗黙の認識と異なるため、これを強調すれば本コードの当初の正当性を損ない、強制への依存を助長することになる」(p.80)

 

「そのような展開は逆効果になる可能性がある。自主的な規範は、その正当性を維持しなければならないなら限定された効力しかないが、正当性のない規範は、企業経営者が形式的な遵守のみを行うことを招きかねない」(p.81)

 

このようにブカナン氏は、日本の上場企業のコーポレートガバナンスを規定するコードに対して辛口の評価を下しました。私の投稿では、コーポレートガバナンス・コードの制定は海外機関投資家を日本に呼び込むことが主目的だったのではないかと推定しましたが、ブカナン氏の論旨を参考にすれば、コードの改訂により、そのような性格を強めていったと言うことができます。

 

おそらくそれは、当初期待したようには海外からの株式投資が増えなかったこと[2]と関係があるかもしれません。コードが現実には実効性を発揮しなかったため、フォローアップ会議による検討等により規範をより詳細にあるいは厳格にして上場企業の変化を促そうとした、という推測です。その論証まではできませんが、代わりに実際に内容がどのように改訂されていったかを次回の投稿で検証し、ブカナン氏の論旨を確認します。

 


[1] ジョン・ブカナン「日本のコーポレートガバナンス・コード 2015年~2021年の展開 正当性、そして原則から規範への変遷」、『東京株式懇話会会報』2023年12月号所収。監訳:松尾健一、翻訳:日本財務翻訳株式会社。注記によれば、Zeitschrift für Japanisches Recht (Journal of Japanese Law)の2022年夏版に英語で掲載されたものの転載。執筆者John Buchananは、ロイズ銀行グループや日系金融機関勤務を経てケンブリッジ大学ビジネスリサーチセンターリサーチアソシエイト。

[2] 5月11日の投稿「(3)外資のシェア拡大とその後の停滞」参照