今までにも初期流産の原因の大部分(約80%)は胎児(受精卵)の染色体異常であり、これは誰にでも偶発的に起こり得る現象で、実際、健康な人でも一度の妊娠で流産する確率は10~15%あるといわれていることはこのブログでもお話してきました。

 

しかし、それでも流産を繰り返す場合には、  流産のリスクが高まる「リスク因子」 を持っている可能性があります

リスク因子は様々ありますが、例えリスク因子がある場合でも、100%流産するわけではないので『原因』ではなく 「リスク因子」 と表現されます。

 

反復・習慣流産(不育症)のリスク因子の

主なものの内容は以下のとおりです。

① 夫婦染色体異常・・・夫婦のいずれか(もしくは両方)の染色体異常が受精卵に引き継がれる

  夫婦どちらかに均衡型転座*1などの染色体異常があった場合、卵や精子ができる際に染色体に過不足が生じることがあり、赤ちゃんが染色体異常になる確率があがります。

均衡型転座を起こしている本人は、何の問題もなく健康で、染色体異常を起こしていることに気が付いていない場合がほとんどです。

 

*1※均衡型転座※

習慣流産の方に染色体検査を行うと約0.8〜1%に染色体異常がみつかります。

その中で一番多い染色体異常は「相互転座」です。

「相互転座」とは、染色体の一部がほかの染色体の一部と入れ替わっている状態のことをいいます。600人に1人ぐらいの割合で見られる、比較的頻度の高い染色体異常です。

転座をしていても、情報量のバランスがとれている染色体異常を【均衝型】、染色体の一部に欠失や過剰があれば情報量のバランスが崩れている【不均衝型】となります。

【均衝型相互転座】を持っていても、遺伝の情報量のバランスがとれているため、本人は全く普通の健康な方で、染色体異常に気づいていない場合がほとんどです。

しかし2本で1対の染色体は、卵子や精子がつくられるときに染色体の数が半分になる過程で複雑な分離を行うため、情報量のバランスのとれている均衝型相互転座でも、一部分が互いに入れ替わっている2本の染色体同士が別々に分かれてしまい、卵子や精子のバランスが崩れた不均衝型の染色体を持つ確率が高くなってしまいます。

 

② 子宮形態異常・・・着床や胎児の成長に影響する先天的な問題

  子宮形態異常には、双角子宮や中隔子宮などの子宮奇形や、子宮筋腫などが含まれます。子宮形態に異常があると赤ちゃんに栄養がうまく運ばれず、流産につながる危険があります。

子宮奇形は成人女性の3.8~6.7%程度いるとされていますが、その殆どが無症状です。

 

子宮奇形が不育症になりやすい理由

   ・赤ちゃんが育つ部屋(子宮腔)が小さい

   ・赤ちゃんに栄養が運ばれにくい

   ・中隔子宮などは中隔の血流が悪く着床しても定着しにくい

   ・子宮頸管無力症になりやすい

 

 

③ 内分泌異常・・・体内のホルモン異常が流産に影響

  卵巣の「黄体機能不全」「高プロラクチン血症」「甲状腺機能低下症」です。

近年の研究では「黄体機能不全」自体は、流産の危険因子ではないと報告されていますが、妊娠維持に有利な免疫状態に影響しますので、間接的な影響は多いに考えられます。「高プロラクチン血症」は、排卵や着床の障害になると言われています。

 

④ 凝固異常・・・血液を固める働きの異常が流産・死産に影響

   プロテインSプロテインCには、血液を固める(凝固させる)活性化Va因子、活性化VIIIa因子を不活性化させる作用があり、 血液凝固を防いでいます

プロテインSやプロテインCが減少すると液凝固が起こりやすくなり、 血栓・ 塞栓ができやすくなります

プロテインS欠乏症は白人では0.03~0.13%と低率ですが、日本人では 1.6%と高率で、日本人に多いのが特徴です

 妊娠中は、プロテインS量が低下しやすいため、血栓が作られやすくなります。

この血栓が胎盤内につくられると胎盤梗塞により赤ちゃんへの栄養の流れを遮り、流産や死産を招く可能性があります。

 

⑤自己免疫疾患・・・外部からの侵入物に対し反応する免疫機能を「抗体」と言い、『自己免疫疾患』とは、自分自身に対しても間違って反応してしまう「自己抗体」の事を持つことを言う

・抗リン脂質抗体異常(自分の生体因子を異物と認識してしまう自己免疫異常)

   「抗リン脂質抗体」は自己抗体のひとつで、この抗体ができることにより、 全身の血液が固まりやすくなり、 動脈や静脈に血栓、 塞栓症を引き起こすことがあります。 特に血液の流れの遅い胎盤のまわりには血栓が生じやすく胎盤梗塞により、流産につながることが認められています。

  最近の研究では抗リン脂質抗体は胎盤のまわりに炎症を引き起こし、 その結果、 流産になることも判ってきました。

 

・拒絶免疫異常(胎児の夫由来部分に過剰に反応してしまう異常)

   お腹の中の赤ちゃんや受精卵の半分は父親由来の組織です。つまり生物学的には赤ちゃんは母体にとって異物でもあります。

免疫は本来異物を排除するために働きます。しかし、妊娠にはそれを阻止し、父親の遺伝子を持っていても赤ちゃんを異物と扱わないように赤ちゃんを体内で育てるためのメカニズムがあります

拒絶免疫異常の場合、この妊娠維持のメカニズムがうまく機能せず、赤ちゃんの夫由来部分をそのまま異物と認識してしまうことで流産にいたると考えられます。

 

⑥ストレス

   ストレスを感じて緊張すると、アドレナリンが上昇し、毛細血管が収縮し、血行が悪くなり、胎児への栄養の運搬がうまくいかなくなり、流産につながってしまいます。

 

⑦母体高齢化

 加齢に伴い染色体異常などを起こしやすくなります。( いわゆる卵子の老化)

 

 

不育症の検査には下記のような検査があります。

(検査の種類については、医療機関や検査を受ける人の状態によって異なります)

 

子宮形態異常の検査(X線造影・内視鏡)

先天的な子宮奇形や子宮の内腔に影響する子宮筋腫などがないか調べます。造影剤を子宮内に入れてレントゲン撮影します。

 

内分泌代謝異常検査(血液検査)

黄体機能不全、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常などの内分泌系に異常がないか調べます。糖尿病についても調べたほうがよいでしょう。

 

血液凝固異常検査(血液検査)

血液が固まりやすくなる因子が多くないか調べます。

 

自己抗体検査(血液検査)

自己抗体(自分の細胞などを異物として認識し攻撃しないか)の検査を行います。抗リン脂質抗体が不育症の原因として挙げられますが、他にも抗体の種類は人によって存在します。

 

感染症検査(血液検査)

クラミジアなどの感染症がないか調べます。

 

同種免疫異常検査

赤ちゃん自体を異物とみなしてしまうのが同種免疫異常(拒絶免疫異常)です。同種免疫異常(拒絶免疫異常)がないかを検査します。

 

夫婦の染色体異常検査(血液検査)

ご夫婦それぞれに染色体異常がないか調べます。