煮方の鍋廻し | Takeblog ~たけぶろ~

煮方の鍋廻し

料理の世界に限定された諺が幾つかあるが「煮方の鍋廻し」もそのひとつ


“煮方”というのは調理場の中で料理長の次に重要なポジション で主に

味付けを担当する(向板“造り手”が2番手になっている所もあるが)

懐石料理等では 仕込みの段階から色だし、下茹で、煮炊きなど複雑な

工程を幾つも重ねるので煮方を担当する人間は限られた“鍋”と“火力”で

その店の味付けを構築していかなければならない


段取りの良い煮方は全体の仕込みを明確に把握し 部署部署へ的確な

指示を出して自分の仕事を効率良く正確にこなしていく

その店の味を左右する要の部分でもある為 失敗や予断は許されない

料理長が“あたり”(味の決定)を見るが そこまでの段階に持っていく

煮方の仕事如何で 調理場全体の仕事が決まる と言っても過言ではない


段取りを間違えたり 手際が悪いと当然 調理場全体に影響を来す

煮方の仕事技量如何でその人が料理長になれるか その裁定も見られるのだ


段取りの良い仕事が出来る料理人や職人の仕事ぶりを「煮方の鍋廻し」と

呼んでいる 勿論段取りだけでなく早さ 綺麗さ 正確さが伴ってこそだが

一流の料理人は皆「煮方の鍋廻し」という言葉を熟知している


たけぶろ-煮方
献立を考えていて昔の資料を探していたら 懐かしい工程表を発見した

自分が2番手(煮方)だった時のレシピ、段取り表だ もう14~5年前か


当時の自分は“段取り力”に定評はあったが“早さ”で同期生に劣って

いたコンプレックスがあり月毎に変わる献立を如何に自分なりの形で

上手く廻して行こうと必死だった。月末ほど胃が痛くなる思いだったなあ(笑)


今思えば不思議だが ただの一度も「辞めたい」「逃げよう」と考えた

事は無い。普通なら何時逃げ出しても可笑しくない程激務だったのに… そう

思いおこすと 当時の自分を何故か褒めてやりたくなってきた

自分自身を褒める事を考えるようになったのも人間として成長したのかな


料理人を目指し 途中で挫折、断念する後輩達を今まで数多見てきた

アドバイスもしてきたし 援助も惜しまなく時間を掛けてきた それでもだ

こればかりは教育云々ではどうしようもないのだ 続けるも辞めるも自分自身


料理人に限らず どの人生にも“壁”は立ちはだかる その時は必死で

無我夢中でその壁を乗り越える それしか手立ては無い 要らぬ考えは

逆に自分の力を鈍らせ 後に大きな後悔を残すだけだ


料理の道に入り間もない若い人に「煮方の鍋廻し」という言葉は少し難しい

だが 高き所に指標を置き 何時か自分もその煮方に立ち上手く鍋廻しする

そういうビジョンを持ってその道を邁進して欲しいのだ