鯛の子(たいのこ) 真鯛の卵巣
桜咲く春頃に真鯛は産卵期を迎え 河岸でも真鯛の卵巣が入手できます ここ10年は四季に関係なく見た目似た様な卵巣が“タイの子”とラベル貼りされてあちらこちら販売されているのを見かけますが 正確に“鯛の子”と呼ばれるものは3月中旬~4月初旬にしか出回らないもの(養殖はこの期間に限りません)
他の9割以上はマダラかスケトウダラの卵巣“すけこ”です 料理人は流石に見分ける事が出来ると思いますが 一般人には見分けが付き難いのでくれぐれもご注意下さい
遵って 献立に“鯛の子煮”と正しく書けるのは1年の中でも僅か1ヶ月足らずなのです
鯛の子を入手できるという事は 言い換えれば「鯛の旬期が終わり」とも言い替えれます 産卵を経る事で体の養分が卵巣に集積され 産卵後の鯛は正直旬期と比べれば明らかに劣ります わさびやで鯛のおまかせ料理を注文頂く時 「鯛の子だけは一緒に提供できません」というのはそういう理由です
鯛の卵巣を料理する時は それ専用に鯛を買い求め 鯛の上身.アラを用いておまかせ料理をする時は できるだけ産卵前(か雄鯛)を買い求めるのが日本料理界の習わしです “桜鯛”だから旬だ-全てが美味しいという訳ではないのです
きっと神様が(あれもこれも欲張るなよ)と私達を戒めているのかもしれませんね(笑)
さて よそ道はほどほどに 鯛の子を下処理/調理していきます
表面を薄く塩洗いし 血合を綺麗に取り除いて適大に切りだし 写真の様に皮目をひっくりかえします
一つは下茹で用 一つは焚き地を入れた鍋を2つ用意し さっと下茹でした直後 横の焚き地に丁寧に移しコトコトの火加減で焚きます 鯛の子の優しく扱う事が見た目綺麗に仕上げるコツ
わさびやでは焚き地と漬け地を分けています(仮焚き-本漬け) あと 生姜を入れると聞きますがしっかり品定めと丁寧な仕込みをすれば生姜などの薬味は不要 逆に素材の旨味がぼやけてしまいます
加熱する事で華が咲いた様に見える事で 献立には“鯛の華子”と記しています 勿論温かくても美味ですが 冷たく提供するのがオツ 僅かな葉山椒の香りが春の装いを齎してくれます
数多の魚介様々な卵巣の形がありますが 鯛の子はひと目で分かる独特な形 まさに春ですね