栃ノ実 | 侘寂伝文(わさびやブログ)

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栃の木273  
栃ノ木/栃/橡  (トチノキ Aesculus turbinata) 

フランス語名“マロニエ”でも知られる栃の木は 東日本を中心に分布するトチノキ科の落葉広葉樹 高木に成長し大きいものは樹高20㍍以上/樹径1㍍を越えるものも珍しくありません 葉も大きく50㌢を越える長い葉柄先に倒卵形小葉5~7枚を掌状につけ(掌状複葉) 葉は枝先に集着しています 

 

栃の木272   5月~6月初旬に葉間から穂状の花が現れます 穂は高く立ち上がり 個々の花自体は然程大きくありませんが 雄蕊が伸び 全体的に群棲で華やかに目立ちます 花色は白や薄紅色です 

 
栃の木274  
初秋にツバキの実に似た果実が成ります 熟すにつれ厚い果皮が割れ少数の種子を落とします 種子は大きさ/艶/形ともに栗に似ていますが 色は濃く球状をしているのが特徴です 種子はデンプンやタンパク質を多含し“栃の実”としてアク抜きし食用として重宝されてきました 

 

食用の歴史は古く縄文時代遺跡からも出土しています アク抜きはコナラやミズナラなどの果実(ドングリ)よりも手間と時間が必要で高度な技術が必要とされますが 嘗て耕地に恵まれない山村ではヒエやドングリと共に主食の一角を成し 常食しない地域でも飢救作物として重宝され 天井裏に備蓄しておく民家も多かったようです 積雪量が多く稲作が難しい山岳地帯では 盛んにトチの実の採取/保存が行われていました そのために森林の伐採時にもトチノキだけは保護され 私有山林であってもトチノキの勝手な伐採を禁じていた藩もありました 

 

栃の木271  

また各地に残る“栃谷”や“栃ノ谷”等の地名も食用植物として重視されていた事の証左と言えます 山村の食糧事情が好転した現在は 食料としての役目を終えたトチノキは伐採され木材とされる一方で アク抜きした栃の実を餅米と共に搗いた栃餅(トチモチ)が現在でも郷土食として受け継がれ 土産物にもなっています 

 

栃の花は蜜蜂が好んで吸蜜に訪れ養蜂の蜜源植物としても重要でしたが 拡大造林政策などによって低山帯が一面針葉樹の人工林と化し 栃の木などが多い森林は減少し日本養蜂に大きな打撃を与えた暗い背景があります 景観が良い事で大正時代から街路樹として採用されるようになりましたが 湿気のある土地を好むため 東京/大阪などの大都市圏とは相性が悪いようです 

 
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日本で育った誰もが幼少時の記憶にある 小学校国語の教科書にも採用されている斎藤隆介 著の児童文学“モチモチの木 ”に登場する木は この栃の木です 

 

料理人にとって“トチの実”は入手はおろか下処理に時間と手間が掛かる難しい食材ですが 食文化を継承する立場にあって避けては通れない大切な山の幸 次回そのアク抜きから紹介できればと思います