[紹介]誰が為の農業振興-宮内義彦 | 侘寂伝文(わさびやブログ)

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宮内義彦261  

先日ある方とお話した“農業特区”に関する元オリックス最高経営者/宮内氏の見聞を紹介します 

 

農業振興は誰のため? 

先日兵庫県/養父市に行きました ここは兵庫県の中でも過疎の進んでいる中山間地域であり その対策に懸命に取り組んでいる地域です このたびオリックスのグループ会社が廃校になった小学校の体育館をお借りしてレタスなどの葉物野菜を栽培する“植物工場”を運営する事になり その開所式に出席しました 井戸敏三知事や広瀬栄市長にも参加して頂き 大変盛況でした 同市は農業振興の国家戦略特区に指定されました 農地取引に関する規制緩和などを通じて耕作放棄地の再生に取り組む戦略計画です 今回の植物工場は特区に指定される前から決まっていた案件ですが 折角の機会ですから農業振興の一翼を担えたらと思っております 

(参照)・兵庫県養父市 国家戦略特区 事業概要(案)-H26.02.17ヒアリング資料(PDF)  

    ・兵庫県養父市 国家戦略特区について-H26.03.31(PDF)  

 

当日の天気は曇りでしたがこの植物工場 実は天候に左右されません ほぼ無菌状態の室内で蛍光灯照明と人工水耕でレタスを栽培するシステム オリックスとしては初めての取り組みで小規模なものですが 農業分野でも技術でイノベーションを起こせる事例として私は手応えと将来性を感じています 

日本の農業は衰退産業だといわれて久しいですが 果たして本当にそうなのでしょうか? 衰退が自然の流れによるものなら仕方がありませんが 社会構造や規制/産業政策などに起因するものであれば 流れを変える事は可能です 

 

例えば 九州より少し広い程度の面積しかないオランダが世界に冠たる農業大国で世界第2位の農産品輸出国であるのは何故でしょうか? 調べてみますと先進的な農業技術の活用に加え 作物の種類を世界に売り込めるものに絞り込むという政策の巧妙さがあります 農業振興の方向性が正しければ 日本の農業もある程度の国際競争力を短期間で身につける事ができるはずです 

 

ではこれからの農業振興政策はこれまでとどのような所を変えて発想すれば良いのでしょうか まずは農業という産業 農村文化あるいはコミュニティー そして高齢者過疎対策という“3つの課題”を分離する事だと思います 今はこの3つをひとくくりにして“農業政策”にしてしまっている 高齢者の生活を支えましょう 美しい田園風景を残しましょう そのために補助金や規制で農業を守りましょう これでは産業として足腰が弱くなるのは当たり前です 農業というのは食べ物を作る一次産業です 食べる人の為に存在するのだからここに最も重点を置く必要がある つまり安全/安心 できるだけ安くて高品位の作物を提供する事に農業政策の中軸を置くべきです 

 

高齢者対策は社会福祉政策の一環として考える 農村文化はそれこそ文化事業として取り組んだ方が良い 補助金を使いながら高齢者が狭い土地を耕す 果たしてこれが食べる人の利益になるでしょうか? 美しい棚田を残そうというのなら それは文化遺産をどう保存するかという観点で取り組むべきでしょう 

過疎対策を農業政策でカバーしようというのもおかしな話です そもそも過疎の村が消えてしまうのは悲惨な事なのでしょうか 私が戦時中の子供の頃 兵庫県の山奥へ疎開した経験がありますが その時の方が今より遥かに悲惨でした 田舎に行けば食べていけると思ったら 食べていけない 疎開した者で田舎が過密状態で 食べ物も住居も行き渡らないのです 人手が無くなった場所からは移り住めますが 食べ物がない場所では生きてはいけません 

 

先ずは農業政策を独り立ちさせる これを徹底すれば論争になっているテーマもシンプルな答えに辿り着きます 例えば企業の農地取得の是非 「それは食べる人の利益になりますか」と問うてみればいいのです 農地所有の主体が誰であろうと食べる人には関係ない だとしたら どうして企業が農地を取得してはいけないのか 正当な理由は何もないという結論になります 

 

農協改革も同じ観点から見ればいい 全国農業組合中央会(全中)の単位農協への指導権限は 農協が手がける商業サービスや金融機能は 果たして今「食べる人の利益」になっているのか? 因みに小泉政権時で規制改革会議に関わっていた頃からこうした議論は尽くされていますが その結果何も動かないというのが現状なのです 今度こそ強い農業をつくり消費者に評価される政策を打ち出して欲しいものです 同時に社会政策としての過疎対策 高齢者対策等を別途考えるのであれば二兎(にと)を追う実りのない論議から決別できるのでしょう 

 

[宮内義彦(みやうちよしひこ)] 

1935年神戸市生まれ 米国に渡って学んだリースを手始めに不動産/生命保険/銀行など事業領域を広げてきた金融サービス界の重鎮 最高経営責任者の在任期間は30年を超え 企業経営に関する著書も複数 語り口はソフトながらも世の中の動きを分析する視点は鋭く時に厳しい マクロ経済についての関心も高く規制改革にも長く取り組む 野球好きで知られ球団オーナーの顔も持つ 現在は“シニア・チェアマン”として経営への助言を続けている