ファミレス苦戦でもサイゼリヤ一人勝ち 圧倒的コスト競争力の秘密
努力させない 仕組みを変える
僅か100円でワインが飲める低価格ファミレス･サイゼリヤが絶好調だ 首都圏を中心に次々と新店を出し今や店舗数は800店を超えた 10年8月期の連結最終損益では74億円の黒字を達成し 8年ぶりに過去最高益を更新する見込みだ
ファミレス業界全体が不振にあえぐ中 一人勝ちを続けるサイゼリヤ その理由は徹底的に｢生産性の向上｣を追求したコスト競争力にある
その鍵を握っているのが09年10月に発足した同社のエンジニアリング部だ 現社長の堀埜一成氏によって立上げられたこの部署は全チェーン店舗のあらゆる業務の改善に取り組んでいる
｢チェーン店が作業改善を目指す上で見つめるべきはハードの仕組みなんです ソフト(人材)の熟練を期待して努力や根性でカバーするには限界がある でも作業を根本から見直して発想を転換できれば50%.80%という改善があるかもしれない｣と語るのはエンジニアリング部課長の久保氏
入社試験でも論理的思考を問うというサイゼリヤの社員の大半は理系専攻 科学に裏づけされた発想力で店内清掃や皿洗いといったレストランでは常識の業務も当然のように見直される その作業がどうして必要なのか どんな目的なのかを原理原則まで遡って考え直し よりよい仕組みを作るためだ
その象徴的な例が開店前のフロア清掃 店舗毎の掃除時間の平均をデータ化してみると掃除機をかける時間に最もムダが多くムラがあると分かった そこで掃除機を廃し通路の幅に合わせた最新式のモップを導入した
｢先ず掃除の定義について考えました サイゼリヤにおける掃除とはフロアに落ちているゴミを最終的になくす事です 始めから掃除機で吸い上げる理由などないのです｣ フロアの規格ごとに最短の順路をマニュアル化すると どのスタッフでも均一の手順で掃除が出来る事がわかった その結果従来は開店前の1時間を費やしていた作業が半分の30分に短縮された 実に2倍もの生産性の向上に繋がったわけだ
｢全836店舗の人件費が30分×365日分削減すると年間で大体1億円という試算になりました 自分達の作業改善によるコスト削減は売り上げとは無関係 仮に売上げが下がったとしても損益分岐点そのものが下げられれば企業として利益が上がる体質になっていきます｣
店舗のスタッフ数が少ないのも同チェーンの特徴だがそれも生産性向上の結果だ フロアの仕事量を移動距離×時間で算出し必要最低限の人数を配置する トレーを使わず皿を手で運ぶのは手ぶらの移動時間をつくらないため 忙しい時間帯は立ち止まらない キッチンにガスレンジどころか包丁も無いのはスタッフの技能に頼らないためだ こうした細かい積重ねが圧倒的なコスト競争力を生みだす
｢新しい仕組みをつくる時は“この業務はなくせないか”“何かに置き換えられないか”を考えます 扱う品目と作業を減らしてシンプルにすることで どの店舗でもどのスタッフでも均一なサービスが提供できる 当社の基本姿勢は製造業と同じなんですよ 『売る.儲ける.努力させる』事から『売れる.儲かる.方法を変える』という仕組みづくりへの転換を目指しています もはやチェーンストアでは常識ではないのでしょうか｣