乾杯も早々に、開口一番私が彼女に伝えたことは、
「抗生物質でも飢えや渇きは治せないんだから、話半分で聴いてくれよ。」
「どこかで聞いたセリフですね。」
「そう、尊敬しているアフガンの中村スクール中村哲先生の名言だよ。
いつも先生のニュースは齧り付くように読んでいるからね♬」
「私はアフガンの難民扱いですか」
「違うのか?」
「まっ、まぁ~男に飢えてるわけじゃないんですけど…。」
「いやいや、飢えているから、今夜こうして話を聴きに来たんじゃないの???」
「失礼しちゃうわ~、飢えてなんかいませんせんけれど、今後の参考にしたいと思いまして・・・」
「あはは。だから、僕は用水路を引いて、耕作できる土地を提供しに来たんだよ。」
「男に飢えてなんかいませんけど、お願いします。ハイボールください!」
「おいおい、ペース早くない?滅茶苦茶強いって聞いてはいるけど。」
「えっ?早いかなぁ?いつものことですけれど、●●さんが男に飢えているとかいうからですよっ!」
「まぁ、自分を客観視することは大事なことだよ。自分が見えなくて、どうして他人である男の品質を見抜くことができるだろう???
女性は周りの男にちやほやされる機会が多いせいで、美人であればあるほどに夢見がちだと思うんだ。
君が夢見ているというわけでは決してないんだけど…」
「男に飢えてなんかいませんけど、それは確かにそう思います。●●さん、心理カウンセラーみたいなこと言いますね?」
「いやいや、俺は単に好奇心だけ旺盛なアホだよ。」
「逆に聞きますけど、●●さんは、どんな女が良いとお考えなんですか?」
「辿りきて未だ山麓だけど、俺は色々な意味で賢い女性が最強だと思うよ。
狡賢いとは違うんだけど、
言動や振舞い、身なり、日々の過ごし方に説明できるという意味で合理性があり、判断力に優れた人間を賢いと表現するならば、
賢い女性こそ、最強の良い女かなぁ。実は色々経験しなくても、今思えばだけどさ、曽祖母や祖母なんかが背中で俺に教えてくれていたんだな。
若い頃は煩悩に支配されて、それが全然見えなかったよ
外見だけで、付き合う人を決めていたような気がする。特に十代はね…。」
「十代から彼女いたんすかぁ、早熟ですねぇ。
賢い……か…ハードル高いっす。一朝一夕に身につかない素養ですね、それは…。
ハイボールおかわり!」
「男はみんな十代から彼女がいると思うよ。机に向かって勉強できないくらい性欲の衝動に突き動かされるんだから…よく乗り越えたよ、俺。レモンサワー!
賢さ…うーん、育てられ方…育ちじゃないのかなぁ?
大きく見れば、自分で賢さを身につける場合と親からプレゼントしてもらう場合があると思っているんだけど、
逆鏡の中、自分で何とかしなくちゃいけないって緊迫した状況でも賢さは身につくだろうし、
両親に躾けられても同じく賢さは身につくだろうしなぁ。」
「私は、今が逆鏡だから賢さを身につけなくちゃ
仕事がうまくいけば、プライベートがお留守になって、プライベートがうまくいけば、仕事がやばくなるんですよ。
何とかしなきゃって悩んでるんですけど。」
「逆鏡って、まだ27歳だろう?みんな社会人になって最初の5年間なんて、そんなもんさ。
もう、社会人になるために必死……極端に仕事にのめり込んだり、そうだと思ったら突然、仕事を醒めた視点から眺めて、プライベートに全神経を集中させたり…
そうやってもがいているうちに、自分なりのバランスができていくんだよ。
良い気分転換を発見するのさ。
いつも言うことだけど、生身の人間から人工的なサラリーマンへと変身するのは、本当に大変なことなんだ。」
「その変身から元に戻る時のために、恋愛は良いですよね❤️」
「酒よりは健康に良いと思うよ。知ってるか?老人ホームでは、じーさんばーさんの恋愛が盛んらしい。」
「灰になるまで…ですね。焼酎ロックで!」
「暇で仕方がないんだろうけれども、健康には良いんだろうなぁ。
もう先も長くないって時に恋愛をするのは何故なんだろう?
もう現実の異性がどういうものかってことは熟知しているだろうに不思議だなぁ。
男女愛ってのは、お互いの性欲の一致だろう?その前提が歳をとると変わるのかもしれないけれども…。
干し柿みたいなおっぱいや干し芋みたいな…
決して馬鹿にしているわけではないけれども、自分は男の立場からして、興味はないけどなぁ。
嗜好が変わるのか?それとも、男女愛が人間愛にとって変わるのか?
年上が好みだけれどもういない…なぁんてな。」
「ジジハラ、ババハラ発言!申し訳ないけど笑えるー!●●さんは、いかにも淡白そうに見えますよ。若い頃やり切ったんじゃないですか?
私は、堅い家庭で育って堅い女学校を出たので、大学で驚きましたもん。
だから、これからなんですっ!」
「そう、力まないでくれよ。酔った?男に飢えてるって感じで怖いよ〜」
「全然素面です!男に飢えてませんから!
それより、どんな男に気をつけなければいけないんですか?」
「男というものはそんな大したもんじゃないよ。魔法のランプから出てくる魔神では決してない。
むしろ、君みたいに人並み以上の経済力があるならば、男なんていらないと思うけどなぁ。
結婚については、話題が先走りすぎかもしれないけど、
どう考えても、婚姻っていうのは女性に経済力がなかった時代に、女性の生活や尊厳を保護するために作られた制度のような気がするよ。
ほら、男は金を稼ぐと数多くの女が欲しくなり、女は金を稼ぐと男なんてものはいらなくなるってよく言うじゃないか。
だから、本当に君の人生のパーツとして男が必要なのか、根本から考え直すのも一つだと思うなぁ、俺は。」
「今は良いですよ、今は!40歳50歳60歳の自分なんて考えたくありませんけど、
その時になっても一人でいる覚悟ができませんし、現時点では子供を産むかどうかの決断をすることができませんし…
親の介護で疲弊して死んでいくのは嫌です!
それに、誰かと一緒に生きていきたいって普通の人間の欲求だと思いますけど?
焼酎、おかわり!」
「おぉ、サラリーマンの鑑!30年後を見据えて大きなビジョンで仕事しているなぁ。
一人も良いものだよ。明鏡止水でいられる。
まぁ、そこは価値観だ。みんな違ってみんないい。」
「みつをっすか?」
「そう。レモンサワー!
結論を先に言えば、君の家族構成で男兄弟がいるならば、その兄弟に似たタイプが、
男兄弟がいなければ、君をとことん愛してくれたという条件付きだけど、お父さんに似たタイプが、究極的に君に合うパズルピースだと…。
それは、俺の高校・大学時代の友人カップルを観察していてそう思うんだよ。」
「何だか夢がないですねぇ。結局おしんこバリバリみたいな…」
「君はコロンブスか?ヴァスコダガマか?新しい大陸の発見を夢見ているのか?」
「そうそう、そして先住民を滅ぼして金やペッパーで巨万の富を築くって…ちょっとちょっと!
真面目に聞いてください!」
「聞いてる聞いてる。」
この辺りから、お互いに酔いが回り始めて記憶も曖昧になっていくのでした。