JAL再建の話となると、稲盛和夫さんが全面に出てきます。
確かにそうなんですが、稲盛さん就任前にはかなり紆余曲折がありました。
JALは破たんする何年も前から不正会計をしていて、経営は回復傾向にあると宣言していました。
それを否定するメディアやジャーナリストに対して、後に謝罪するくらい強気でした。
それがまずいとなったのは、監査法人がこれ以上は不正会計を黙認出来ないと迫ったことです。
これによりJALが今の経営計画では破綻することを公表し、ようやく再建に乗り出します。
とはいえ、JAL役員は国策企業時代からいない人達もそのような体質で、政府が破綻させないという思いがあり、破綻しそうな会社の再建策ではなく、赤字転落した企業の黒字化のような経営策ばかりでした。
その為、金融機関が見放してきたり、海外から企業再生専門の大手と契約してようやく営業利益で底を打ちます。
しかしながら底を打っただけでお金がない。
もう後一年しか保たないの助けてー、と当時の与党に頼んだら、選挙前だから終わるまで待って、と固辞されてしまいます。
そんな与党は選挙で負けて政権交代。
JALはすぐさま新政権に助けてーとお願いしますが、JALは全与党が溺愛していた企業だったので、大企業の破綻は困るけど、政治責任は前政権のせいだからいいかなという状態。
前政権は空港に胴体着陸させるつもりでしたが、新政権は海に墜落させるつもりでした。
すぐに方針を変えて、海に胴体着陸させるようにしましたが、その際にこれまでいた企業再生会社等を追い出して、国土交通大臣が個人的に集めた有識者を中心にした再生チームを結成します。
まだこのときは稲盛さんはいません。
この新再生チームは安全性を落としても更にリストラし、金融機関は債権放棄させた上で、放棄した分と同額を貸しなさいという物でした。
当たり前ですが、JALは安全性を落としたくないので反対ですし、金融機関も無茶苦茶なことなので反対します。
これを見た金融業界や航空業界は、新政権はJAL救済と言いながら潰すつもりだ、と解釈し、JALとの航空保険を解約したり、JALに国際線なのに現金払いさせたりするようになりました。
後一年で潰れると言いながら潰れなかったJALですが、これにより現金不足になり、更には稼げる国際線でも飛ばせなくなっていきます。
この頃はJALの経営陣や執行役員は全員クビでもいいから、JALだけは生き残らせてという願いだったそうです。
ちなみに新政権は取締役クビにして、再生チームのメンバーを取締役すればよくね?という構想もあったらしいです。
再生チームのメンバーは国土交通大臣が個人的に声かけしたメンバーなのに、それをそのまま大企業の取締役に?
ちなみに公的資金注入は生き残る絶対条件なのに、それなしで金融機関に金よこせと迫ったから、JALが破綻した後は、どの子会社を買い叩くか、世界中のファンドが精査していたそうです。
再生チームがいくらこうやります、と言っても、金融業界や航空業界からすると、再生するようには見えなかったということです。
で、金融機関がお金出さないなら公的資金注入になるわけで、そうなると政治的な都合があるのか、再生チームの再建策では無理、となったようです。
更には再生チームを解散させて、与党内?政府内に専門チームを結成。
公的資金注入を前提とした再建策なので、希望が持てそうなのですが、政権が変わっても判断するのに時間がなくて、結局は再建策が固まる前につなぎ融資をすることになります。
再建策が固まっていないので、このつなぎ融資は何に使ってもいいみたいな状態で、しかも焦げ付き前提の貸し方です。
国税使いながら、そんな雑なやり方なのかと思うかもしれませんが、たぶん政権変わってなくてもつなぎ融資していたら同じでしょうね。
まぁ、JAL最後の決算が1000億円超えの損失だったから、1000億円のつなぎ融資はまさに首の皮をつないだことになります。
年明けには破綻するのですが、破綻するまでには大枠の再生計画が決まりました。
規模がでかいので、政府が全面バックアップつき。
例えば海外の空港の着陸料や燃料代はJALが払えないときは日本政府が払います、という保証をしました。
国内でも同様で、だから機内食はクリーニング、航空部品とかの契約は破綻してからも継続してね、というものです。
破綻したのでもちろん上場廃止。
まぁ株価100円下回っていたジャンクですから、残っていた株主は怒っていても、紙くずになるのはわかっていたでしょう。
公的資金注入は破綻後に9000億円です。
つなぎ融資と合わせたら1兆円ですね。
マイレージもなくなるはずですが、そうなると再建難しいよね、ということで司法が特別にマイレージという負債をなしにはしませんでした。
金融機関は有無を言わせずに5000億円の債権放棄をさせられています。
こちらは金融機関が異議を申し立てることも出来なかったそうですが、その為に全額放棄にしなかったのかな。
同時に再建計画も発表されたのですが、金融業界と航空業界では、これだけの公的資金注入をされた企業なのに、再建計画を見て、あ、これは復活しないな、と思ったそうです。
しかも稲盛さんがトップになることが公表されても、あの人の顔に泥を塗ってしまうだけ、というくらい夢のような再建計画だったようです。
稲盛さんは国土交通大臣からの強い要請で、JALの新会長になりました。
そんな立場や国内のフラグシップと言えるJALのことですから、国土交通大臣も新経営に口を出してきたわけです。
しかし稲盛さんは任せてくれたんだから、口を挟むな、と当時の総理にも伝えたそうです。
稲盛さんの決断力、実行力でわかりやすいのは他にもあります。
就任時に航空業界は素人と自認しており、経済界でもいくら稲盛さんでも大丈夫かな、という声はありました。
再建計画はJALも関与していましたが、主導は政府や関連省庁です。
で、その再建計画を精査して、金融期間等、主要取引先を挨拶回りして、話を聞きまくった結果、就任8日目には再建計画の一部を撤廃しています。
国交省や財務省からすれば素人と言いながらこうもあっさり全否定されたから激おこだったでしょうが、結果から見れば、そのほうがコストを抑えられることができ、その分、再生前倒しになりました。
専門家が多い国交省や財務省の意見より、自らの経験や挨拶回りで得た情報だけでより良い道をすぐに敷けたのは、やはり名経営者と言えるでしょう。
とはいえ、稲盛さんの最大の欠点はリストラ経験がないことです。
これまで京セラが苦境に陥ってもリストラせずに乗り越えてきたことは、美談として語られますが、リストラしないと生き残れないJALでは、むしろそこがネックです。
しかも政府が再建計画の詳細を作成すると、それが稲盛さんに合わないことも多く、金融機関からは再建が長引くとすら思われたようです。
ですが、結果としては前倒しで再建でき、再建計画の隅までケチをつけられたと憤慨していた関連省庁の人達も、この結果を出されれば何も言えません。
無論、このV字回復は経営破綻し、巨額の公的資金注入が出来たからという大前提があります。
着陸料等の支払いに政府保証をつけたりした特別措置もあり、決して稲盛さんが陣頭指揮を取ったから、だけではありません。
3.11後の東電再建ではJALと同じように破綻させても、政府保証をつけたりすれば電気インフラに支障がでず、民間から名経営者を持ってこれれば、より良くなれると言われました。
公的資金注入等の再建策は、二度目の破綻をさせない為のやり方。
そして、稲盛さんの再建策は、日々の営業でしっかり稼ぐやり方です。
両方あっての今のJALであり、稲盛さんの力が大きいのは再建が前倒しできたことに対してではないでしょうか。