古代ギリシャの七賢人 | 蝶に魅せられた旅人

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  七賢人ソロンを展翅した。

Charaxes solon ソロンフタオ ♂
(2016.3.22 Thailand Maehonson)

  何か気に入らないので、頭の位置と触角を調整しなおす。



  でも、あんま上手くいかなーい。
むしろ、悪なっとるぅー。
酔っ払い酒飲んでるし、もういいや。

  けど、バランスは下翅を思いきって下げたことにより、自分なりにはカッコよく決まったかなあ…。
  下翅の位置に関しては異論もあるだろう。でも自己満足と言われようと何と言われようと、このバランスが一番カッコよくて優美だと思うのだ。
  まあ、元々カッコイイ形だから、どう展翅しようがカッコよくなるかもしんないけどさ…。

  ソロンは形もカッコイイけど、裏もカッコイイ。



  単純な表の柄に比べて、幾何学模様を思わせる複雑なデザインがカッケー( ☆∀☆)
  正直、表展翅するか、裏展翅するかを迷ったくらいだ。

  和名はキオビフタオ。
何の捻りもない見たまんまのネーミングだ。
  ひどいとまでは言わないけど、キオビフタオよりソロンフタオの方が圧倒的に通りがいいみたいだから、和名の評判は多分あまりよろしくないのだろう。

  学名のSolonは、たぶん古代ギリシャのアテナイ(アテネ)の立法者であり、詩人でもあるソロンにあやかったと思われる。
  補足すると、我々日本人には馴染みがあまりないが、ソロンさんはギリシャ七賢人(註1)の一人とも称されているようだ。

  それはそうと、ソロンってこんなチビッコだったっけ…?
今回、何頭か採ったけど、コレだけが特別小さいという記憶はない。

  実をいうと、ソロンを初めて採ったのは今回が初めてではない。
  2013年にインドネシア・スラウェシ島で何頭か採っている。但し、時期がズレていたせいか、完品は一つも採れなかった。

  その時のイメージだと、決して大きくはないが、もっとゴツい感じだった気がする。こんなシャープで繊細な翅形のイメージは無い。
  もしかして、スラウェシ島で採ったのは全部♀だったりして…。

  気になったので、標本箱から探しだしてきた。



(2013.1.21 Indonesia Sulawesi Palu )

  ポーンうわっ、全然雰囲気が違う!!
黄色の帯が細くて尾突が短かい。形もずんぐりむっくりだ。そして、遥かにデカくて胴体も太い。優美さとは程遠い屈強な印象だ。
でも大型とはいえ、こりゃ♀じゃねぇや。♂だな。

  それにしても、表側のは酷い展翅だな。
翅のバランスも悪いし、触角にいたってはアッチ向いてホイ状態だ。
  大きさの違いを解って戴くために同じ幅の展翅板に乗せてみる。ついでに触角も再調整し直す。





  うーむ(-_-;)
並べてみると、ふた回りくらい大きいぞ。
こんなに大きさもデザインも違うとは驚きマンボだ。

  スラウェシ島は、東洋区とオーストラリア区の生物分布の境界線と言われるウォレス線とウェーバー線の間にあり、両方の区域の生物が棲んでおり、ウォレシアなんて呼ばれたりもする。
  もう少し詳しく説明すると、ある線を境に動植物の種類がガラリと変わる。
これを生物地理区と言いまんねん。

(出典 『himebati.jimdo.com』)

  つまり、例えばエチオピア区を外れると、ゴリラやカバやキリンくんは突然いなくなるし、オーストラリア区を外れるとコアラもカンガルーもキーウィさんもいなくなるって事だ。
  この生物地理区を見れば、昔はひと塊だった大陸がどういう風に分断され(大陸移動)、またくっついたかというのが推測できるってワケ。

  ウォレス線とウェーバー線の図も添付しておこう。

(出典 『蝶の百科 ぷてろんワールド』)

  赤いのがウォレス線でオレンジがウェーバー線。
何で2本あるのかというと、最初にウォレスさん(註2)が提唱して、のちにウェーバーさんが淡水魚の分布から『ウォレスさん、アンタそれちゃいまんでー。』と新たな境界線を引いたってワケ。

  これはどちらかが間違ってるというワケではなくて、どちらも正しい。
どういう事かというと、ある種の生物はウォレス線を境に分布しなくなるけど、別な生物はウェーバー線を境にいなくなるって事だね。だから、明確に1本の線は引けないって事なのさ。

  スラウェシ島には、東洋区の蝶もオーストラリア区の蝶もいるんだけど、これは最近の研究では東洋区の島とオーストラリア区の島が💥ガチンコで合体して出来たかららしい。
  で、何千万年か何億年か知らんが、長い年月を経て生物相が融合し、独自に進化したのではないかと言われているようだ。
  実際、スラウェシ島の蝶はとっても変だ。同じ種類でもなぜか他地域のものよりデカくなる傾向があり、翅が鋭くとんがって湾曲化する傾向も強い。あと、黒化といって翅が黒っぽくなる種類も多いのだ。何でそないなるかは、学者も説明できないみたい。

  一応、例も挙げとくか。

Graphium sarpedon
(2010.5.8 東大阪市 枚岡公園)

  日本にもいるアオスジアゲハだ。
でも、コレって♀だな。しかも春型。

  う~ん(´・ω・`)
春型はちっこいし、おまけに♀だから比較対照には向いとらんなあ…。

  夏型の♂の標本を探す。
しかし、中々見つからない。アオスジアゲハなんて近所の公園にも飛んでる極普通種だから、見ても無視なんである。ゆえに蝶採りを始めた初期の頃くらいの標本しかないのだ。

  部屋が標本箱でシッチャカメッチャカになった頃にようやく見つかった。

アオスジアゲハ 夏型♂
(2010.9.27 沖縄県名護市 八重岳)

  展翅が今イチだけど、コレが一番まだマシ。蝶の展翅ってのは、試行錯誤を繰り返して段々上手くなってゆくもんなんだろうね。奥が深いのだ。

  夏型は大型になり、帯が細くなるのが特徴です。
アオスジアゲハは何処にでもいる蝶だけど、こうして改めて見ると美しい蝶だと思う。普通種だから、飛んでいても見向きもしないけど、もし珍品だったら激しく胸が騒ぐだろうに。美の優劣もいい加減なものだ。

  お膳立てが整ったところで、スラウェシ島のミロンタイマイの登場だ。

Graphium milon ミロンタイマイ♂
(2013.1.31 Indonesia Sulawesi Palu )

  大型化し、上翅が尖って大きく湾曲するというスラウェシの蝶の特徴がよくでている。
  一説によると、アオスジアゲハが進化したものがミロンタイマイだという。
但し、現在スラウェシにはアオスジアゲハも生息している。これは比較的最近になって他から移入したらしい。だから、スラウェシではアオスジアゲハの方が圧倒的に少なくて珍だ。とはいえ、百年後には逆転してる可能性があるけどね。

  大きさの違いがわかりにくいので、並べておこう。



  これなら分かりやすい。ねっ、全然違うでしょウインク!?
  他にこういうパターンになるのは、ツマベニチョウ、ベニシロチョウ、スミナガシ、ミカドアゲハ等々だ。んっ!?、コモンタイマイとかもそうか…。
  因みに大型になるというだけなら、アオネアゲハなど枚挙に暇がない。


  ソロンの話に戻ろう。
調べてみたら、ソロンフタオの分布はインドからフィリピンと広く、たくさんの亜種に分かれるみたいだ。

(出典 塚田悦造『東南アジア島嶼の蝶』)

  数えてみたら、何と15亜種にも分けられている。
インドシナ半島のソロンは、sulphureus スルフレウスという亜種で、小さくて翅が鋭く湾曲するらしい。
  一方、スラウェシ島のものは hannibal ハンニバルという亜種のようだ。
びっくりハンニバル!?
ガーン人喰い!?
『羊たちの沈黙』、『ハンニバル』(註3)のレクター博士みたく人喰いなのか!?
人喰いとは、こりゃまたえらく物騒な名前をつけたもんだな。
  気になったので、ついでにハンニバルも検索ちゃん。

  どうやらハンニバルとは、紀元前の時代、ローマ軍に最も恐れられていたというカルタゴの将軍ハンニバル・バルカの事を指すようだ。人喰いとは一言も出てこない。
  どうやら、レクター博士の異称である『人喰いハンニバル』(註4)が強烈に印象に残っていて、それが頭の中でハンニバル=人喰いという風に刷り込まれてしまったようだ。
  冷静に考えてみれば、人肉嗜好はカニバリズムだったわ。
  因みにsulphureusは『硫黄色の』とゆう意味です。つまり、薄めの黄色ってこってすな。

  また逸れた。話を元に戻そう。
スラウェシ島の蝶は巨大化する傾向があるから、このハンニバルもデカいんだろね。

  そう思いつつ文献を読み進めていくと、えーっびっくり!、何とこの大きさが周辺の亜種も含めて普通サイズらしい。スラウェシのものだけが、特別に大きいようではないみたいだ。
  なあ~んだ。つまんないなあえー

  待てよ。じゃないにしても、もう1つのスラウェシ島の特徴である翅のとんがりと湾曲があまり見られないなあ…。
むしろ、タイで採ったスルフレウスの方がよほどスラウェシの蝶らしい形だ。
コレって、どゆ事(´・ω・`)❓
(@_@;)何かまた頭がこんがらがってきた…。

  生物って、何がどうなって自らの形を変化させてゆくのだろう?
進化といえば聞こえがいいけど、翅がとんがったり、湾曲して何の意味があるというのだ。
結構、無意味な進化もいっぱいあるんじゃねえの?

                                                               おしまい


追伸
  さらっと書くつもりが、スラウェシ島のソロンを引っ張り出してきた事によって、どんどん長くなってゆくという最悪の事態になったなりよチュー
ウォレス線とかウェーバー線とか出てくると、あんまりいい加減な事も書けないし、調べものも増えるから書くのに時間がかかってしゃあない。
  ソロンフタオに関しては、別に『メーホンソンの蝶』にも登場しますので、興味のある方は、あわせてそちらも読んで下され。
  あっびっくり、自分で読んでみたら、ちゃんと小さいとか書いてあるわ。やっぱり所詮は3歩あるいたら忘れるニワトリ並の脳みそ脳ミソなのだ。


(註1)ギリシャ七賢人
  ソロンの他はタレス、キロン、ビアス、クレオブロス、ピッタコス、ベリアンドロス。プラトンだけはベリアンドロスのかわりにミュソンを挙げている。


(註2)ウォレスさん
  アルフレッド・ラッセル・ウォレス。
イギリスの博物学者、探検家。アマゾン河やマレー諸島を探査し、生物の分布に境界がある事を世界で最初に発見した。またダーウィンの進化論(自然選択説)にも影響を与え、発表を迷っていたダーウィンの背中を結果的には押すかたちとなった。

(註3)『羊たちの沈黙』『ハンニバル』
  アメリカの作家トマス・ハリスの推理小説。何れもベストセラーとなり、映画化もされて大ヒットした。羊たちの沈黙はレクター博士シリーズの第二作にあたり、ハンニバルは第三作にあたる。因みに第一作は『レッドドラゴン』。また、他に若き日のレクター博士の姿を描いた『ハンニバル・ライジング』がある。


(註4)人喰いハンニバル
  殺した相手の内蔵を食べるという猟奇的行為からそう呼ばれるようになった。
因みにハンニバルはレクター博士のファーストネーム。