【パンツに手を入れられた話】


幼稚園年長くらい。5~6才のころ


秋の終わりかけの、

肌寒くなった今くらいの季節。


近所のお友達のはるみちゃんと、

外に遊びに出かけた。


お母さんは

「寒いからズボンを履いていきなさい」って

わたしに言ったけど、

「わたし、スカートがいい!」って、

スカートを履いて出掛けてしまった。


はるみちゃんは、長ズボンを履いていた。


「はるみちゃん、ズボンなんだ。
 でもいいや。
 わたしは、スカートがいいんだもん♪」


スカートをヒラヒラさせて、

はるみちゃんと
団地から離れた小川に行こうと、

ひとけの無い道を歩いていると、


見知らぬ車が止まって、

男の人が降りてきて、

「道がわからないから教えて」って。


男の人は、私を呼び寄せると、

ぐいっと抱き上げて、

パンツの中に手を入れた。


そのまま車に連れ込まれそうになったけど、

キャア!ってわたしが声を上げたから、

男の人は慌てて逃げて、

ビューンと車は去っていった。


とてもこわかった。


けど、それよりも、

お母さんにバレるのがこわかった。


はるみちゃんが、大人に告げ口するんじゃないか、

こわかった。



お母さんがあんなに

「ズボンを履いていきなさい!」って言ったのに、


私がわがままを言ってスカートを履いたから、

こんなことになったんだ。



わたしは、はるみちゃんに、

「お母さんにはぜったいに言わないで!」と

口止めをすると、


そのまま、

このことは誰にも言ってはいけないこととして、

胸の奥にしまった。



股に何かを入れられたのではないか、

怖くて怖くて、

その日は遅くまで寝られなかった。



それから、お風呂でお尻を

ゴシゴシ何度も洗った。


「お尻になにかつけられたんじゃないか??」

こっそり、鏡で確認したりもした。

よくわからない。


よくわからないけど、

わたしは、もう、ふつうとは、ちがう。



この時から、

わたしはスカートを履くのが怖くなったし、


「周りの清潔な子と違って、

 わたしのおまたは、もう、汚れてる」


幼稚園生だから、

性のことや詳しいことはわからないけど、

自分が一生取り返しのつかないことをされてしまった、

という感覚を持った。



***



今日、母のもとに

市の福祉課の方が面接に来て、わたしも同席した。


退院後の一連の手続きの山場を越えて、

その後、

夕暮れ時になった。



母の入浴を見届けて、

ぼーっと生まれ育ったあの部屋で、

一息ついて窓の外を眺めていたら、

突然、この出来事を思い出した。




喉がぎゅううっと締まった。

涙が溢れそうになった。


母が風呂から出てくるのを待って、

深呼吸すると、


30年越しに、

思い切って、

母に、このことを、言った。



あの時、

お母さんに「ズボン履いて行け」って言われたのに、

言うことを聞かなかったから、

こうなってしまったと、

ずっと自分を責めてきたこと。


大人に言ったら

おおごとになると思って、

ずっと言えずにいたこと。


とってもこわかったこと。


お母さんに心配されそうで、黙っていたこと。

はるみちゃんにも、口止めをしたこと。

ずっと言えずに黙っていたこと。


ほんとうは、

あのとき、とっても、とっても、

こわかったこと。


………


母は

「ええっ!それはこわかったねぇ。

 そんな変な人がこの近くにいたの!

 あやさん、ずっと言えずに黙っていたんだねぇ。

 それは、つらかったねぇ。

 大人に言ったら、警察沙汰になって、

 おおごとになると思ったんだねぇ。

 こわかったねぇ。」と、


否定もせず、責めもせず、

ただ、ただ、話を聞いてくれた。


胸につかえていたものを、

今日ひとつ、外に出せた。

言えなかった秘密を、ひとつ打ち明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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母、何かをやろうとして途中で忘れて、

 


混乱するらしく、

引き出しを開けたりしめたりしていた。


この写真、あとでみたら、

横顔のシルエットが、わたしに似ていて、


(´д`)うへー

となった。