物品の販売における収益(売上高)の認識について、IFRSでは下記の5要件が全て満たされた時に認識するとされています(IAS第18号)。
(1)物品の所有にともなる重要なリスク及び経済価値を企業(売手)が買手に移転した時
(2)販売された物品に対し、所有と直接結びつけられる程度の継続的な管理上の関与も有効な支配も、企業(売手)が保持していること
(3)収益の額を信頼性を持って測定できること。
(4)その取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと
(5)その取引に関連して発生したまたは発生する可能性のある原価を信頼性を持って測定できること
上記要件を簡潔にまとめれば、物品販売の収益の認識は「所有権が移転した時点」となります。
日本では多くの企業において出荷基準を採用していますが、顧客との契約上特段の定めがない限り、物品を出荷した時点では所有権のの移転という要件は充足されないため、収益認識できない場合が多いことが想定されます。従って、取引基本契約書を取引パターン毎に精査し、物品に係る所有権の移転時期を網羅的に調査し、実態に即した収益認識基準への変更が必要となります。
出荷時点で所有権の移転がなされていると認めることが困難な取引に関しては、従来の出荷基準から着荷基準もしくは先方検収基準への計上基準変更が必要となります。
なお、輸出取引に関しては、現状船積日(B/L日付)で売上計上している会社が多いと思われます。これは、インコタームズ条件の大半がFOBであり、FOBでは所有権の移転時期が船積時点と定められているためです。
従って、FOB条件での輸出取引は船積を以て「財貨の移転」が完了していると考えられるため、IFRS適用後も現状と同様に船積基準(B/L日付)による売上計上で問題ないものと思われます。
但し、輸出取引に関しては、以下のような場合は個別に検討が必要となりますので、注意が必要です。
・FOB以外の取引条件を用いている場合
・FOB契約でも、その条件に何らかの変更が加えられている場合
・船積時点以降の保険料負担と保険料受取人が売手である場合
・船積以降の滅失や毀損について、過去に補填したことがある場合
また、仕向け地持込渡し条件の場合は、船積で以て「財貨の移転」が完了しないため、輸出先の指定場所において物品を買手に引き渡した時点で売上計上することになります。
以上色々書いてきましたが、結論を申せば、
「IFRSでは、取引条件によって売上計上基準日を使い分ける必要が生じる」
ということになります。
継続的業務運用を考慮した場合、同種の取引であるにも関わらず、得意先によって異なる取引基本契約を締結しているケースが散見される会社においては、契約の見直しも含めて検討をし、業務負荷の低減を検討する必要があると考えます。
特に取引基本契約を見直すということになると、営業部門、法務部門を巻き込んだ契約形態の網羅的調査と変更方針の検討、そして方針に基づく得意先との交渉等が想定されるため、かなり大がかりな作業となることが想定されるます。
また、実態把握の結果、出荷基準から着荷基準もしくは先方検収基準への変更を余儀なくされた場合、具体的な対応方針を検討する必要があります。マニュアルで対応するのか、既存の販売システムを改修して対応するのか等も含めて、スケジューリングも意識した対応が必要となります。
処理方法等の個別の対応方式に係る選択肢に関しては、後日また書きます。
トモ