もしもし、って聞こえたから、もしもし、って応えた。
埃をかぶっていた名前を懐かしい声がゆっくりと発音する。
少しだけ胸が光ったけどあの頃とは全然違っていて、
それは懐かしい人みんなに感じる眩しさだった。
聞いてるか聞いてないかなんてどっちでも良いんだろうなって思いながら、
ベッドの上で適当に相槌を打った。
今日と明日の間で、挫けた気持ちを持て余して、
古いアルバムをめくってしまう気持ちに似ている電話。
一人は一人に影響されて、
もう一人も、もう一人にちゃんと影響されたふたりの日々。
過去になったものだけが永遠なんだと思う。
これはすべての関係に言えることだけど、私に関わってくれた人全部で私は出来上がっている。
強く影響を与えてくれた人は限られているけど、
それでも、これからも出会い続けて、出来上がり続けていくんだ。
そう思うと少し気が遠くなる。
人生のどの辺りにいるのかな、なんて。
私を通して、君は、私が今まで出会って来た彼や彼女に出会うし、
私は、君を通して、君が出会って来た彼や彼女に出会っていくんだ。
そんなことをぼんやり考えていたら、
こっちはもうずっと雨なんだ、今日も大雨だよってうんざりした声が私を現実に引き戻した。
その部分だけが妙にリアルにはっきり私の胸に迫ってきた。
ゆっくりベットから起き上がり、窓辺に立つ。
東京にいる私が見る空は、雲ひとつない晴天。
突き抜ける青に目が眩んだ。
悲しくないけど、なんかどうしても泣きたい気分ってこういうことなんだって。
あの頃大切にしていたものと、今大切にしているものは、違う。
全然違う。
違うけど、それで良いんだ。
だって、
一人は一人に影響されて、
もう一人も、もう一人にちゃんと影響されたんだから。
それが全てだと思う。
永遠なんかより、ちゃんとずっと意味がある。
だから人生ってやめられないんだなって思って、小さく笑ったら、
話聞いてる?って怒られた。
今を生きる、それだけ。