過去には、どうしたって戻れない。
確かに戻れないんだけど、一緒に大人になってきた横顔とは、会おうと思えば会える。
この夏だって、この冬だって、多分これからも、ずっと。
本気を出せばこれからでも、ね。
何もなかったけど、知恵と工夫と退屈と。
あの頃がたまらなく、懐かしくなることがある。
今も素敵だけど。
ちょうどいい温度、湿度のベール。
傷付く事がどういう事か知っている人達が涙と優しさで編んでくれたベール。
海の、潮の匂いがするベール。
その大きなベールで育った人間は、ちょっとずつ鋏でベールを切って、外に出る、旅に出る。
そしてそのうち、同じ色のベールを持った誰かを見つけて、笑ったり泣いたりしながら、ふたつのベールを縫い合わせて、大きなベールをまた作る。
その繰り返しかな。
たまに会って、元気?って言って、昔話に花を咲かせて、またね、って別れて。
もう、一緒の場所に帰る事はない。
それぞれの日常に帰っていく。
それは当たり前のこと。
私が東京で色んな事を吸収している間、何ひとつ変わらずいてね、呼吸しててね、って願うのは、ただのわがままだ。
大好きな人たちが変わらずにあの町で、暮らしている事を何処か永遠のように思い込んでいた私って馬鹿だなぁ。
みんな、生きてる。
この1分、1秒で変わってしまう。
寂しいけど、嬉しい事だ。
もう子供じゃないって事だ。
でも、帰り道にちょっと悲しくなるのが、私だけじゃないといい。
あの頃が大好きだったから。
今年の夏も、胸を張って会えるように、頑張る。