コウリアショーの仕事をしたときのことです。

私は韓国民族舞踊の踊り子イン二と、そしてドラマーの宗雄は同じく踊り子のヨンランと親しくなりました。

そしてそれぞれは、毎夜、ステージが終ってから、珈琲を飲んだり食事をしたりしているうちに、互いに惹かれ合い、いつしか特別な関係になりました。

そんなある日、バンドメンバーの一人が休み、エキストラ(別のプレーヤー)が入って演奏がなされました。

いつもとサウンドが違うので、ショーのメンバーの姉さん格のシンガーが、Kポップを歌ってステージを下りるときに、あからさまにイヤな顔をしました。

すると、ステージの袖にヨンランが来ました。その歌手のレパートリーの一つを示して、歌わせてくれというのです。

演奏をしてあげると、いかにも楽しそうに歌ってみせました。

バンド演奏に問題がないことを、オーディエンスやスタッフに証明したかったのです。とりわけ、恋人の宗雄の為に。

今思えば、あの後そのオンニイ(年上の女性、お姉さんの意)にいじめられなかったか、心配です。

その後韓国で、インニを連れて、ヨンランと会いました。

彼女は京畿道の川べりの公園で、「(宗男と)会う約束してないよ」と、寂しげに言いました。

そして帰りぎわ、自身が折った千羽鶴を入れたガラスケースを、体調を崩しているらしい宗雄にと、差し出しました。

私は東京に戻って、彼にそれを渡しました。

彼は彼女に連絡する気がありませんでした。彼女の良さに、どうして気付かないのでしょう。

彼女の思いは彼に通じませんでした。しかし私は思います、彼女は恋愛という名の芸術を、全うしたと。

あれから二十数年が過ぎました。

彼女はきっと結婚をして、子供をつくり、幸せに暮らしていることでしょう。

彼女とは二度と会うこともないでしょうが、彼女の作品は私の胸の隅で、いまも輝きを放っています。



立ち止まり両手をまるめ捕ふるも風花は消えて影も残らず をさむ