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演奏を生活の糧とするようになって、間もない頃のことです。
わがバンドはあるショークラブに派遣され、数カ月プレーしました。
そのクラブでは日替わりで、タレントさんがやってきて、歌ったり踊ったりしましたが、まれにヌードダンサーもやってきました。
ある日暴力団員風のマネージャーに連れられて、端正な顔立ちのダンサーが楽屋に入りました。
間もなく、マネージャーがショーのうちあわせをしに、バンド控え室にやって来ました。
いつもならタレント自身が来るのですが、事務所の意向で、ミュージシャンとの接触を避けたのかもしれません。
うちあわせが終わり、やがてショータイムとなり、彼女はステージに上がり、舞いはじめました。
踊る彼女の横顔にほのかな品性が見え、良い家庭に育った女性であることを伺わせました。そしてルックスが(当時の私の)好みの女性でした。
バックミュージックが速いテンポの曲から遅いテンポの曲に変ったら、彼女は最後の衣装を脱いでその衣装で下半身を隠しながら踊りました。
ライトの中で、白い姿態がまばゆい魅力を放っています。
当然のことながら、私はセクシーダンスを特別視しません。しかし無意識の中に男のジェラシーのようなものが芽生えたのでしょうか、そのときばかりは、切ない気持ちが込み上げました。
そんな彼女に魅せられた私は、なんとか彼女に私自身を印象づけたいと思いました。
しかし声をかけるチャンスもなく、第一ステージは終りました。
やがて第二ステージ、最後のショータイムです。
曲が終わりました。彼女は楽屋に戻り、私服に着替えて、我々が演奏している間に帰ってしまうでしょう。
私は、彼女が我々(バンド)より一段下の舞台から引き下がろうとしたとき、一歩前に出て、右手を差し出しました。
すると彼女は、私の目を見て微笑み、その手を強く握り返してきました。しかしそれは私に気を寄せての行為ではありません。その刹那軽く引っ張ったたのです。
私はちょっと前へのめり込みました。オーディエンスから笑いが零れました。
今思えば、彼女なりの照れ隠しだったのでしょう。
そのあと彼女は、衣装でその白いボディーの前面を隠しながら、小走りに舞台の袖へと消えていきました。
仕事が終わってから、そんなステージの様子を見ていたクラブの女性スタッフが、可愛い娘だったね、と声をかけてきました。
それ以来彼女は、クラブにやって来ませんでした。
カプセルを割りて出でたる柔肌の蝶は月下を徐々に艶めく をさむ
Butterflies of soft skin which breaks capsules and comes out.
It gets glossy gradually in the moonlight.
OSAMU
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