ノーベル平和賞授賞者の金大中が、大統領就任中のことです。

当時のTVニュースのシーン。日本人リポーターが、天皇の謝罪の責務ついて、彼にインタビューします。

すると予想外のことが起こります。彼は、「いまや権力を持たない天皇について質問するな」とリポーターを叱ったのです。

当時は天皇の過去の責任や謝罪の責務について、近隣国や嫌日の邦人がしばしば口にしましたが、彼は日本の象徴である天皇をかばったのです。

彼は昭和二十年頃来日し、学業に励みました。当時は今より韓民族に対する差別・侮蔑が多く、辛い思いをしたことでしょう。

しかし、憎しみを抱えなかった。それどころか、日本や日本人恩師への感謝を忘れなかったのです。

南アフリカのネルソン・ホリシャシャ・マンデラは若くして反アパルトヘイト運動に身を投じて、国家反逆罪で終身刑の判決を受けますが、27年の獄中生活を経て、1990年に釈放されます。

出獄した彼が世界に向けて発した言葉は、「我々は白人を差別しない」でした。

我々の先輩のサッチモことルイ・アームストロングは、自伝で次のように語りました。 

「ここまで来る間にいろんな苦労があったろうと、いろんな人に訊かれるけれど、私は一度もいやがらせを受けたことがない」。 

そして、読譜を教えてくれたバンドのことなど、親切な白人のことが、綴られていました。

彼がアンクルトム(白人に媚びる黒人)であるとは、聞きません。

やさしくしてくれた人々に、不快な思いをさせぬよう、嫌な思い出は切り捨てたのでしょう。

次は、数年前TVでみたシーン。

ヨーロッパのサッカーの試合中、コーナーに立つ黒人選手の前に、バナナが投げられました。

彼はそれを拾い、皮をむき、涼しい顔をして食べて、プレーを再開しました。

しびれました、思わず拍手をしました。

以上が道の全てだとは思いません。いろんなかたちの正義があるからです。

ただ私は、大人(たいじん)は、敵味方を問わず人を敬い、差別.侮蔑に動じないと思うのです。

そんな強い人間になれるかは分かりませんが、一歩でも近づくよう、努力したいと思う私なのでした。



身仕度に自(し)が枝(え)を枯らし落としけりやがて蕾の並び立つ梅 をさむ