時折寒さがぶり返しますが、ウォーキングコースのあちこちの立木に芽が出て、ほんの少し春の景色が見えてきました。

そんな空気が手伝っているのでしょうか、このごろなにか物足りない気分になっています。

突然紙袋一つを提げて海外へ脱出したり、事前の連絡もせずに楽器を携えて友人の巡業先へ行ったりする、昔のフリーな自分に、戻りたいと思うのです。

当然ながら年相応の責任から、そんなことは出来ませんが。

さて昭和の昔、台湾の女性ダンサーが舞台の袖ですれ違う私に、自身の写真を差し出しました。

一対一で会話することなど一度もありませんでしたが、私のステージを評価してくれたのかもしれません。そうであれば、ありがたいことです。

間もなく彼女は、桜が風に散る朝、海の向こうへ帰っていきました。

そういうことは印象に残るもので、今日もふと思い出して、懐かしみました。

そんなふうに好ましい女性とすれ違い、深い関係に到らなかったことが幾度かありますが、欲しいものが易々と手に入る程、世間はあまくないということでしょうね。

なおその写真は、チャイナドレスのシルエットが素敵なので、今でもフォトアルバムにさしてあります。

そういえば去年の春に、似たようなことがありました。

ウォーキングの途中、紫色の艶(あで)やかな花をみつけます。しかしカメラを持っていません。そして忙しさに、暫しそのことを忘れます。

一週間後にカメラを持って行ったら、花は咲き終わっていました。

今春また会えるでしょうか。




前栽(せんざい)に見えて隠るる若き雉寄りきて羽をみせて帰れよ     (をさむ)