27歳 流浪の生活を終え 郊外に小さい家を構えた

それは親父が生前 退職金で買っておいてくれたものだ

20坪ほどの前庭に いろんな植物を植えた

草木は育ち 季節ごとに花を咲かせ 蝶をよび 小鳥を啼かせた

しかしそこは 駅から遠い不便な所だった

夜の仕事に疲れきって 雨の中を40分も歩きたくなかった

やむおえずその家を売って 駅のそばのマンションを買った

後日自転車に乗って 手放した家を見にいった

家は取り壊され 土が盛られ 洋風の家が建っていた

あれから幾十(そ)の年が過ぎ 詩歌をたしなむようになった

思い出の庭は想像がプラスされ いろんな景色を醸し 幾つもの作品のヒントになった

ときには 緑豊かな植え込みに 青光りする雉の羽が見え隠れする

ときには 静まりかえる月下の池を ゆるりと鵠(くぐい)が過ぎる

ときには 枯れた芒叢(すすきむら)の上空を くさび形をして長く連なる渡り鳥がゆく

明日庭はどんな風景を広げるだろうか どんな生き物を放つだろうか




思ひ出のさ庭に魚(うを)の住めるらし靄を降りきて漁るしらとり     (をさむ)