ある日、ミュージシャン仲間と、日光市の奥にある、湯西川の「平家の里」へ行きました。

ちょうど、和服姿の美しい女性による、琵琶のソロのライブが行われていました。

さすが上古からの伝統音楽、情緒があって、しかもビートがきいています。

ときには低音の合いの手のようなフレーズが、ときには高音の反復のフレーズが、知らず知らずのうちに、胸を熱くさせました。

また最後まで姿勢を崩さずに、撥(ばち)を打ち、吟じるプレーヤーの姿に、好感が持てました。

当日は空に薄く白雲がかかって、気温があまり上がらない、正にライブ日和でした。

演奏がドライブしてきた頃、どうでしょう、ドロドロと日雷(ひかみなり)が鳴り始めたのです。

弾き手は、かまわず、撥を打ち続けます。

それは琵琶法師と平家の御霊が、呼び合っているかの様でした。

そんなライブショーとの出会いが、初夏の小旅行を、忘れ難いものにしてくれました。

数日後、再び立ち寄ったら、すでに彼女は東京へ帰っていました。




平家郷出でて蛍は灯に消えぬ  (をさむ)