初恋、それは私にとって、甘さと苦さの入り交じるものです。そして私はどれが初恋であるか、定めることが出来ません。

初めて特定の異性が気になったのは、小学5年生のとき。

その相手は、クラスの隣の席にいた建設会社の社長の娘で、美しい少女でした。

しかしある日、私がたまたま持っていた彩色の施されていない鉛筆を見て、「それ1円でしょう、2円かな」と言って、馬鹿にしました。当時でも、その金額で鉛筆は買えません。

ふつうセレブはそんなことを言わないはずですが、なぜでしょう。

私の家は貧しくはなかったから、コンプッレックスを感じたわけではありませんが、彼女への思いは失せました。

次にそれを意識したのは中学1年生のときです。やはり同じクラスの美しい少女でした。

ある日自室で寝転んでいたら、突然彼女を思い出しました。そして親しくなりたいと思いました。

私は大切にしていた、当時としてはしゃれたボールペンを、彼女にプレゼントすることにしました。

次の日、「これあげる」と言って、差し出したら、彼女は黙ってそれを受け取りました。しかし、それ以上なにも云えない私でした。

誘わないのだから、クラスメート以上の関係にはなりません。不甲斐ない私でした。

そんな私に対する彼女の気持ちは、どうだったのでしょう。気になります。

次は高校生になってからです。

ある日友人と行ったボーリング場に、絵画に出てきそうな、涼しげな面立ちの女性を見ました。

このとき私の女性の顔の好みが決まったのかもしれません。

彼女はその友人の中学時代のクラスメイトでした。一目で好きになり、交際を申し込みました。彼女はOKをくれました。

初めてのデートのとき、彼女のほうから当時流行っていた同伴喫茶に誘いました。

大人になってからの私なら、そんな積極的な彼女に一歩ひいて接したかもしれません。しかし青い私はそんな彼女に夢中になりました。

しかしすぐに別れがやってきました。彼女に新しいボーイフレンドが出来たらしいのです。私にとって初めての情欲の交際が終わりました。

まもなく、彼女が次々と私の周りにいる友人達と交遊し、めぐって私のところへ来たことを、知りました。

彼女にとって私は遊び相手の一人だったのです。それを知った胸の痛み、今でも覚えています。立ち直るまでに、暫しの時間を要しました。

しかしそれも青春。そんな経験が私を育てたのです。

さて、どれが私の初恋でしょう。あの時代から随分たったのに、まだそれを決められません。




路地に入るまでの寒さや畦の風あと幾歩かと思ひつつゆく     (をさむ)