後になって相手の本心に気づくことがあります。

その相手とは、私の通っていた中学校の学年一の美人と呼ばれ、しかも学年共通テストもトップの、私にとっては高根の花だった女性のことです。

そんな彼女と度々校内で出くわすのです。そして彼女はいつも私を見つめて可愛いと言って誉めるのです。若い頃であるにせよ、私自身は己の面立ちが可愛いものだとは思いませんが。

当時成長が遅く、まだまだ子供だった私から見て、彼女はもう充分に成熟した、遠い位置にいる人でした。

それに彼女は彼女と同じクラスのちょっと不良でかっこいい男とつきあっていると、噂になっていました。まさか私に興味があるなんて、思ってもいませんでした。

しかし年頃の女性が、なんの関心も無い男性に、幾たびも近寄っては来ませんね。そんなことにも気付かないまぬけな私でした。

ただもう少し後の私だったら、女性に強い関心を持っていたから、彼女の思いを察知して、彼女を引き寄せ、抱きしめたことでしょう。

高校生になって、通学バスの後部座席から、すれ違う一方のバスの後部座席に、彼女を発見しました。

制服姿の彼女も私に気づいて、驚きの表情をしました。

互いのバスはあっという間に離れて行きます。

彼女は振り返ったまま、ずっとこちらを見ていました。

それ以来、彼女と遇っていません。




捕ふるも風花は手になかりけり     (をさむ)