あれは冬の最中でした。

私は湯島のショークラブに派遣されて、数ヶ月演奏しました。

我がバンドがステージをおりると、アコーステックギターのデュオと共にフラメンコダンサーがあがりました。

大きな目をした愛くるしい踊り手が、官能を絞り出すように、それでいて品性高く、舞いました。

しびれました。私はフラメンコダンスがそんなに魅力的なものだとは知らなかった。

そんな彼女をデートに誘いたいと思いました。けれど彼女と接する機会に恵まれません。

そこで私はメンバーのピアニストの女性に伝言を託しました。

それ以来、彼女が私を意識してくれるようになりました。

しばし時が過ぎて、私たちはクラブのそばのコーヒーショップでお茶を飲んだり、バンドマスターの経営するスナックへ行って酒を飲んだりするようになりました。

彼女との頬ずりは香り良く、くちづけは甘く、その記憶は今も私の心から立ち去っていません。

そんなある日、彼女は突然クラブを降りて、スペインへ発つと言ったのです。

その日我々の交際に終止符が打たれました。

彼女がいなくなって数週間がすぎた頃、クラブのマスターが楽屋に来て、彼女の公演を応援してきたといいました。

私にむかって、俺の女だと言っているようにみえました。

ショックでしたが、今となれば彼女が幸せだったら、それでいいと思います。

数年後、インターネットにて彼女の公演の画を見かけました。

懐かしいその姿を見て、彼女のパフォーマンスが見たくなって、公演場所に行ってみようかとも思いましたが、なんだか情けなくて、やめました。

私を発見した彼女が動揺して、プレーがおろそかになってもいけません。

そんな朝、ウォーキングの途中、用水路のほとりにひなげしをみつけました。

スペイン語でアマポーラというそうです。

なんとなく彼女を重ねてながめました。🌸✨





立ちどまり両手をまるめ捕ふるも風花は消えて影も残らず をさむ